「あれ? そういえば……」

 その時、ふと頭に戻って来た直後の奈津美先輩の姿が浮かんできた。
 奈津美先輩は、体中に木の葉をくっつけて戻ってきた。でも、これまで巡った場所の中に、木の葉が体につきそうな場所はひとつもなかった。
 だったら、あの木の葉はまだ僕が行っていない場所――ゴールでくっついたものではないだろうか。

「先輩……。木の葉……」

 奈津美先輩と木の葉で連想される場所。そして、問題とも符合する点がある場所。そんな場所がなかったか、再度頭の中に検索をかけていく。

「活字……。投げ捨てる……。川へ……。落とす……。……落とす?」

 連想の果てに出た、〝落とす〟という言葉に、ちょっとした引っ掛かりを覚える。
 木の葉。奈津美先輩。落とす。本。

「――ッ! そうか!」

 四つのキーワードが、頭の中でひとつにつながった。

 あれは、ちょうど一年くらい前のことだ。一度だけ、奈津美先輩が木に登っていたことがあった。
 急いで昇降口まで駆けていき、靴に履き替えて外に出る。今回向かうのは校門ではなく、校庭だ。その隅に立つ、大きな桜の木を目指して、全速力で走る。

 走りながら思い出すのは、奈津美先輩が文集を手製本で作ると言い出した時のこと。あの人にお灸を据えた時の会話だ。

『あと、去年の秋。校庭の隅にある桜の木に登って、よりにもよって生徒指導の先生の頭にハードカバーの本を落としましたよね』

 頭の中に、自分の言葉が木霊した。
 そう。奈津美先輩は願いが叶うとされている桜の木に登り、本を括りつけようとして、うっかり落としてしまったのだ。

「まったく何だよ、このヒント。あんな逸話から先輩のうっかりミスを連想しろとか、無茶苦茶過ぎるって」

 僕の心の中でぽやぽや笑っている奈津美先輩に、苦言を呈する。

 これ、奈津美先輩が木の葉をつけて帰ってこなかったら、絶対にわからなかったぞ。なんていい加減なヒントを考えるんだ、あの人は。
 頭の中で文句を並べるうちに、目的の桜の木が見えてきた。桜の木には、先輩が引っ付けていたのと似た木の葉が茂っている。