「先輩、いくら思いつかなかったからって『地獄変』はないでしょう……」
この状況で僕に対してのメッセージに〝地獄〟を使うとか、昨日の仕返しにしか思えない。
ともあれ、今は奈津美先輩のしょうもない仕返しに構っている場合ではない。市立図書館の時と同じように、早速、背表紙に書かれたタイトルの頭文字をつないでいく。どうやら今回は、漢字は平仮名にして一文字目を見るルールのようだ。
「ええと、なになに……。『わ』『た』『し』『の』『に』『じ』」
つなげて浮かんできた言葉は、『私の虹』。だったら、答えはひとつだ。
僕は並んでいた本を手に、展示してある『アルカンシエル』のところまで行く。そして、七冊並んだ『アルカンシエル』から、迷わずオレンジ色の一冊を手に取った。
実は、文化祭が終わった後、『アルカンシエル』は一冊を書籍部に残して、他は僕と奈津美先輩、そしてこれまでお世話になった人たちに配ることになっているのだ。これも、書籍部の数少ない伝統のひとつ。そして僕たちの間で、すでに誰に対してどの色を渡すかは決めてある。
真菜さんに〝赤〟。陽菜乃さんに〝黄〟。叔父さんに〝藍〟。渋谷先輩に〝紫〟。書籍部兼九條先生用に〝緑〟。僕が〝青〟。
そして残った一冊、〝オレンジ〟が奈津美先輩だ。つまり、『私の虹』とは、このオレンジの本を指しているはず。
「きっと、この本のどこかに……」
手に取ったオレンジの『アルカンシエル』を、慎重にめくっていく。
すると、本の真ん中くらいのページに、見慣れたメモ用紙を見つけた。どうやら正解だったようだ。
素早くメモを本から引き抜き、元のように飾り直しておく。
メモをズボンのポケットに入れた僕は、奈津美先輩が仕掛けに使った本をいまだトリップ中だった後輩の手に載せた。
「え? 先輩、この本なんですか!?」
「悪い。その本、配架し直しておいてくれ」
現実に戻ってきたと同時に戸惑いの表情を見せた後輩へ、拝みながら頼んでおく。
言葉通り悪いとは思ったが、暇していたと本人も言っていたし、これくらいは許してくれるだろう。必要なら、後で仕事の代返をするなりフォローを入れておけばいい。
僕は後輩の返事も聞かないまま、図書室から脱兎のごとく飛び出した。
この状況で僕に対してのメッセージに〝地獄〟を使うとか、昨日の仕返しにしか思えない。
ともあれ、今は奈津美先輩のしょうもない仕返しに構っている場合ではない。市立図書館の時と同じように、早速、背表紙に書かれたタイトルの頭文字をつないでいく。どうやら今回は、漢字は平仮名にして一文字目を見るルールのようだ。
「ええと、なになに……。『わ』『た』『し』『の』『に』『じ』」
つなげて浮かんできた言葉は、『私の虹』。だったら、答えはひとつだ。
僕は並んでいた本を手に、展示してある『アルカンシエル』のところまで行く。そして、七冊並んだ『アルカンシエル』から、迷わずオレンジ色の一冊を手に取った。
実は、文化祭が終わった後、『アルカンシエル』は一冊を書籍部に残して、他は僕と奈津美先輩、そしてこれまでお世話になった人たちに配ることになっているのだ。これも、書籍部の数少ない伝統のひとつ。そして僕たちの間で、すでに誰に対してどの色を渡すかは決めてある。
真菜さんに〝赤〟。陽菜乃さんに〝黄〟。叔父さんに〝藍〟。渋谷先輩に〝紫〟。書籍部兼九條先生用に〝緑〟。僕が〝青〟。
そして残った一冊、〝オレンジ〟が奈津美先輩だ。つまり、『私の虹』とは、このオレンジの本を指しているはず。
「きっと、この本のどこかに……」
手に取ったオレンジの『アルカンシエル』を、慎重にめくっていく。
すると、本の真ん中くらいのページに、見慣れたメモ用紙を見つけた。どうやら正解だったようだ。
素早くメモを本から引き抜き、元のように飾り直しておく。
メモをズボンのポケットに入れた僕は、奈津美先輩が仕掛けに使った本をいまだトリップ中だった後輩の手に載せた。
「え? 先輩、この本なんですか!?」
「悪い。その本、配架し直しておいてくれ」
現実に戻ってきたと同時に戸惑いの表情を見せた後輩へ、拝みながら頼んでおく。
言葉通り悪いとは思ったが、暇していたと本人も言っていたし、これくらいは許してくれるだろう。必要なら、後で仕事の代返をするなりフォローを入れておけばいい。
僕は後輩の返事も聞かないまま、図書室から脱兎のごとく飛び出した。