「これ、かがり台の材料じゃないの……?」

「え……?」

 難しい顔のまま呟いた真菜さんに、僕は呆けた顔で聞き返してしまった。

「かがり台って、手製本で本をかがる時に使う、あの?」

「そう。そのかがり台」

 確認するように聞くと、真菜さんは首を縦に振って肯定した。
 かがり台は、手製本を行う際に使う道具だ。台に糸を数本張って本の背を宛がい、宛がった糸ごと本を綴じていくのだ。
 先月、『アルカンシエル』を作る際に見たので、僕もよく覚えている。

「私、前に奈津美ちゃんにかがり台の作り方を教えてもらったことがあるんだよね。で、その時に教えてもらった材料が、確かこんな感じだった気がする」

 メモ用紙を僕に返しながら、真菜さんは補足するように言う。

 その言葉を聞きながら、僕は頭の中で記憶にあるかがり台を全力で分解していた。ベニヤ合板1枚、角棒5本、棒ネジ2本、ナット4個、蝶ナット2個、ナットに対応するワッシャー適量。細かいところまではわからないけど、確かにそんな材料でできていた気がする。

 答えがかがり台とわかった瞬間、僕の頭は急速に回転し始めた。この学校でかがり台が関係してきたことと言えば、一度しかない。ついさっき思い出した、夏休みの『アルカンシエル』作りだ。
 ならば、次のメモがある場所は、ひとつしかない。かがり作業を行った技術室だ。

「すみません、真菜さん、陽菜乃さん。僕、もう行かなくちゃ! 助けてくれて、どうもありがとうございました」

 真菜さんからメモ用紙を受け取り、勢いよく頭を下げる。
 顔を上げると、真菜さんと陽菜乃さんの驚いた顔が飛び込んできた。まあ、いきなり捲し立てるようにお礼を言われたら、誰だって戸惑うか。
 けど、ふたりともすぐに微笑みを浮かべ、僕を送り出してくれた。

「何だか知らないけど、役に立てたなら良かったよ。奈津美ちゃんとの勝負、頑張ってね」

「事情はよくわからないけど、悔いが残らないようにね、一ノ瀬君」

「はい! ありがとうございます!」

 ふたりの大先輩に背中を押され、僕は走り出す。
 人々の間を縫うように駆け抜け、僕は一目散に元いた特別教室棟を目指した。