「で、こんなところで何してんの? 奈津美ちゃんは?」

 真菜さんが、人好きする笑顔でフランクに話しかけてくる。彼女の後ろでは、お姉さんである陽菜乃さんも穏やかに笑っていた。

 一方、事情を話しづらい僕は、曖昧に笑いながら「いや、ちょっと……」と返すのが精一杯だった。
 すると、僕の態度から何かを察したのだろう。真菜さんが神妙な面持ちになって僕の目を見つめてきた。

「もしかして、奈津美ちゃんの渡仏に関係していたりする?」

「――ッ!」

 ずばりその通りのことを言い当てられて、動揺が思い切り顔に出してしまった。その様を見た真菜さんは、「やっぱりそうか」と納得顔になった。

「真菜さん、奈津美先輩の修業のこと、知っていたんですね」

「まあ、これでも奈津美ちゃんの相談相手を務めさせてもらっているからね。お盆休みの頃に、教えてもらったわ」

 僕が確認すると、真菜さんはあっさりと頷いた。
 事情を知らないらしい陽菜乃さんは、「え、フランス? 栃折さんが? どういうこと?」と後ろで少しオロオロとしている。この状況で不謹慎かもしれないが、少し和んだ。

「で、話戻すけど、悠里君がここにいるのは、奈津美ちゃんのフランス修業が関係しているわけね」

「まあ、そんな感じです。それ関係の成り行きで、ちょっと先輩と勝負することになりまして……。これが何を意味しているのか、考えていたところなんです」

 言い逃れはできないと観念し、手に持っていたメモ用紙を真菜さんに見せる。誰かにヒントを見せるのはさすがにルール違反かと少し思ったけど、ネットとかと一緒でこれもルールで規定していなかったし、勝手にセーフとした。

「何、これ。何かの材料?」

 真菜さんに渡したメモを覗き込み、陽菜乃さんが不思議そうに首を傾げる。僕とまったく同じ感想だ。陽菜乃さんにも思い当たる節はないらしい。

 真菜さんの方に目を向けてみれば、彼女も口をへの字にして難しい顔をしている。これは真菜さんもダメそうだ。
 もしかしたら手掛かりを掴めるかもと思ったけど、そううまくはいかないらしい。これはやっぱり、地道に答えを探すしかないだろう。

 そう思って真菜さんからメモ用紙を受け取ろうとした時だった。