何となく、入学した時の部活動勧誘街道を思い出した。あの時も、ここは人と活気に溢れていた。そして僕は、こんな人だかりの先であの人と再会したんだ。
 感傷に浸りながら、僕は人波を掻き分けて校門に辿り着いた。

 パッと見た限りでは、メモらしきものは見当たらない。ただ、僕はここに次のチェックポイントを示すヒントがあると確信していた。

「きっとあの時のことが関係しているはずだ」

 小さな声で呟きながら、頭で当時のことをより正確に思い出していく。
 あの時、何があったか。奈津美先輩が何を言い、どんな行動を取っていたか。それらを頭の中で細かく逆再生していった。

 そう言えば奈津美先輩、地べたに這いつくばって泣いていたっけ。その前は腰に抱きつかれて、周りの生徒から痴話ゲンカとか言われたな。奈津美先輩があの時の奈津美ちゃんだってわかった時は、思い出が崩れた気がして軽くショックを覚えたもんだ。

「けど、結局先輩は先輩だったな」

 過去を遡っていきながら、僕はふと俯きながら笑ってしまった。
 奈津美先輩は、やっぱり奈津美ちゃんだった。自分の夢に対してまっすぐで、どこまでも愚直に突き進んでいく。きっと僕は、目を逸らしていただけで、そんな奈津美先輩のことをずっと好きだったのだろう。

 そんなことを考えている間に、記憶の逆再生は終わりの部分までやってきていた。僕と奈津美先輩が再開した、あの瞬間だ。あの時、奈津美先輩は校門の支柱に寄りかかって、僕を待っていた。
 そこまで思い出し、僕は顔を上げた。

「これだけ人通りが多いんだ。だったら、誰かに拾われたり捨てられたりしないようにしておくはず」

 人波から外れて、奈津美先輩が寄りかかっていた支柱の影に入る。文化祭用にゲートを取り付けられた支柱を注意深く見ていくと、ゲートの装飾の間に、小さなメモ用紙を見つけた。
 間違いない。奈津美先輩のメモだ。

「何だか拍子抜けするくらいあっさりしてるな」

 軽く嘆息しながら、メモ用紙を手に取る。やっぱり、良くも悪くも素直過ぎる奈津美先輩では、この勝負は無謀だったんじゃないか?
 そう思いながら次のメモ用紙を見た僕は、直前の考えをすぐに否定する羽目になった。

「……なんだ、これ」

 僕の戸惑い交じりの声は、文化祭の活気の中に消えていった。