妙に自信満々な態度で、奈津美先輩が不敵に笑う。なんだか気になる態度だ。もっとも、この人の根拠のない自信は今に始まったことではないから、単に見通しが甘いだけかもしれない。

 いや、でも僕への仕返しの件もあるからな。もしかして、本当に何か僕に勝つ秘策でもあるのか? 例えばヒントが差し示している場所がわかっても、簡単には入っていけない場所だとか……。

 まさかとは思うが、社会的に信用を失う場所にでも隠されたらまずい。さすがの先輩もそこまでのことはしないと信じたいけど、この人は突拍子もないことを平気でするからな。その場合、奈津美先輩との勝負に勝っても、人生に負けてしまうかもしれない。

 僕は牽制の意味も込めて、奈津美先輩に忠言した。

「先輩、一応先に言っておきますが、女子更衣室とかに宝やヒントを隠すのはなしですよ」

「へ? ……ああ、その手があったか! そこなら、悠里君は女装でもしないと入れないし、仕返しにもってこいじゃない。悠里君、頭いい!」

 忠告のつもりで言ってみたら、なぜか感心されてしまった。先輩、すごく目をキラキラさせている。
 というか、これは墓穴を掘ったかもしれない。この人、本気で僕が女装するか負けを認めるか選ばざるを得ない状況に仕向けかねない!
 これは念のため、もう一回釘を刺しておいた方が良さそうだ。僕はジト目で奈津美先輩を見つめた。

「やるな、と言ったはずですが?」

「じょ、冗談よ。やるわけないでしょ、そんなこと。私だって今日のために色々と準備してきたんだから、今さらそれを変えたりしません」

 パタパタと手を振って、奈津美先輩は「大丈夫よ」ともう一度頷いた。この人にも当初の計画があるみたいだし、本人の言う通り、この期に及んで変更することもしないだろう。とりあえず信じておくことにする。

「他に質問はなし? それなら私は、宝を隠しに行って、他の準備もしてきちゃうけど」

「ええ、大丈夫です。先輩が隠しに行っている間、僕はここで待っていればいいですか?」

「そうね。そうしてちょうだい。昨日みたいに、約束破っちゃダメよ」

「勝負が破綻するようなルール違反はしませんよ。安心して行ってきてください」

 僕がそう言うと、奈津美先輩はのほほんとした笑顔を浮かべて、「それじゃあ、いってきまーす」と資料室から出て行った。