『小泉に避けられているんだけど、どうしよう?』

『なんだかんだで、由宇ちゃんは恭ちゃんに甘いから大丈夫。ガンガン押していこう!』

 相談に乗ってくれた青葉のアドバイスは、実に的確だった。由宇を無理やり外に連れ出すことに成功した恭矢は、美味しいラーメンを一緒に食べてからホットコーヒーを片手に公園で駄弁るという、一般的に見て決して豪華とは言えないデートで思い出を作った。

 大したことはしていなくとも、恭矢は由宇と一緒にいられてとても楽しかった。これが独りよがりな気持ちでないのならいいのにと、願わずにはいられなかった。

「……あ、そうそう。青葉の志望校が決まったよ。旭高校だって」

 由宇は目を丸くしてから、とても嬉しそうな笑顔を見せた。

「県内一の進学校だね、すごい……! ねえ、相沢くんは今も青葉に勉強を教えているの?」

 青葉は今年、一年遅れの高校入試を受けるべく猛勉強中だ。そのため、一番身近な先輩である恭矢が家庭教師として青葉の勉強をみているのだった。

「うん。とは言っても、青葉のレベルだともう教えることなんてなくなってきたよ。旭高校だと過去門も難しくてさ。俺も必死になって予習してる」

 青葉に勉強を教えるようになったきっかけは、一度は諦めた大学への進学を考えるようになったからである。

 教師になりたいと勇気を振り絞って家族に相談したとき、皆が応援すると言って恭矢の背中を押してくれた。夢を追いかけるチャンスを貰った恭矢は、ひとに教えることを経験しておいた方がいいと担任に勧められたこともあり、一日に最低一時間は青葉や妹たちの勉強をみる習慣を続けていた。

「内容的には青葉をみるのが一番難しいんだけど、精神的には楽だよ。玲や桜は教えていても、全然じっとしてくれなくてさ」

「でも相沢くん、なんだか楽しそうに見える」

「……まあ、楽しいかな。でもさすがに私立大学に行く金はないから、頑張って国公立を目指すつもり。これからはバイトも減らして勉強時間に充てる予定だから、雑貨屋に行く頻度も減っていくと思う」

「そっか……うん、わたしも応援するよ。頑張ってね」

 このとき、由宇の表情が一瞬曇ったことが、恭矢に勇気を与えた。