「……俺は、あなたを正しい道に戻したいという青葉の想いを背負った。だから絶対に、あなたには罪を償ってもらう」

「……君は覚えていないだろうが、この質問は二度目になる。そして、前回とは重みがまるで変わってくる。……相沢くん、君は青葉を抱いたのか?」

 この質問に対しては、沈黙をもって肯定した。

 刺青を入れるだけでは、青葉の〈記憶の再生〉能力は男である恭矢には発動させることができない。他に何か方法がないかと悩む恭矢に、青葉は体を差し出すことを申し出てくれたのだ。

 恭矢は彼女の優しさに甘え、青葉を抱いた。彼女に別れを告げた、あの日曜日のことだ。

 できるだけ優しく、できるだけ愛情を持って。それでも純粋なだけではない行為は、青葉の体に恭矢という確かな痕を残した。行為の最中、青葉は一度も弱音を吐かずに恭矢を受け入れた。

 だが、一度も恭矢への好意を口にしなかった。今思えば、青葉はあのときすでに恭矢から離れる気持ちを固めていたのだろう。

 ひどいことをした。青葉から大切なものを奪ったくせに、恭矢は青葉を選ばない。

 だからこそ、青葉のためならたとえ、この身がどうなろうとも戦える。

「……わからない。どうして、由宇ではなく青葉だった? 〈記憶の再生〉能力がほしかったからか?」

「……勝手な話だけど。小泉とは一緒に悩んで、一緒に戦って、一緒に生きていきたいと、そう思っているから」

「そうか……。結果的に君は由宇を選んだ、ということだね」

 美緒子は品定めのような視線を由宇に移した。

「やはり血は争えないな、由宇。お前は私によく似ている」

「似てないわ。わたしは、お母さんとは違う」

「相沢恭矢に対してとった行動を考えてみなさい。自分にとって都合が悪いことは、相手の記憶を消してでもなかったことにする。はは、どこが似ていないって? 私とお前は同じだ。私と共に生き、〈レミリア〉を継ぎなさい。由宇には素質があるよ」

「違う……わたしは……!」

 強く拳を握り締める由宇の手を、恭矢は優しく覆うようにして握った。そして驚いて恭矢を見上げる彼女に白い歯を見せてから、美緒子に断言した。

「あなたと小泉は違う。あなたは自分のために能力を使うけど、小泉はいつだって、ひとのためを思って能力を使っているんだ」

「だからどうしたというんだい? 動機がどうあれ、やったことは同じだろう?」

「違う。あなただって、本当はわかっているはずだ」

 恭矢が美緒子の元へ近づいていくと、遠藤が間に入った。

「社長に手を出すおつもりなら、容赦しませんよ」

「安心してください。手は出しません」

 そうは言っても遠藤が引き下がるはずもなく、更に一歩近づいた恭矢を押さえようと捕獲の構えに入った。恭矢は遠藤が腕を動かす少し前に、タイミングを見計らって反対の手で彼の指を掴み、勢いよく反対側に捻った。上手く決まったのか、遠藤は軽く声を上げて恭矢から離れた。

 度重なる練習の成果である。運よく技が決まったことに、恭矢は周りに気づかれないように静かに息を漏らした。