バイトで忙しい恭矢と部活に精を出す瑛二がゆっくり話せるのは、昼休みしかない。

 瑛二はカツサンドを頬張りながら、紙パックのジュースを飲んでいた。ふて腐れていた時期もあったものの今はすっかり立ち直った瑛二は、バスケ部で人一倍練習しているらしい。

 これまではドライブで切り込んでシュートチャンスを狙うフォワードだった瑛二は、ドライブの切れ味を武器に、視野の広さを生かした司令塔ポジションであるポイントガードに方向転換したことが功を奏し、レギュラーの座も近いかもしれないと言っていた。

「瑛二に相談したいことがあるんだよ。俺、どうしても倒せないひとがいるんだけどさ、どうすればいいと思う?」

「は? ゲームの話?」

「いや、真面目に。そのひとを倒さないと青葉と小泉が悲しむんだけど、俺は一度完膚なきまでにやられてる。しかも、俺はそのときの記憶がまったくない」

「……恭矢、お前大丈夫か? 気持ち悪いぞ」

 真実しか口にしていないのに、気持ち悪いと言われてしまった。

「口は悪くとも、真面目な瑛二くんのことだ。きっと何か素晴らしいアドバイスをしてくれるんだろ?」

「おい、勝手にハードル上げんなよ。……つか、どうしても倒したいなら恭矢一人じゃ無理だろ。助けてくれそうな誰かに頼るしかないんじゃね?」

「……うーん。俺はさー、できれば自分一人の力でなんとかしたいんだよな」

 瑛二は急に噴き出した。

「なんだよ、何がおかしいんだよ?」

「いや、だってさ。恭矢が一人でっていうのは無理だろ。お前はいつだって誰かに優しくして、そんでもって誰かに優しくされて生きてるんだし」

「……そうなのか?」

「自覚ねえのかよ! そうだよ! お前はひとに頼られることは全然気にしないのに、ひとを頼ることは極力しようとしないだろ? でも、それは思い上がりだからな? 無自覚だろうけど、お前は皆に優しくされて生きてるんだ。だから、『一人で』とか勘違いするなよ? 恭矢が助けを請えば、誰だって手を差し出してくれるはずだ」

 そこまで言って照れたのか、瑛二は立ち上がった。

「……だからさ、俺にできることがあれば言ってくれ。いつだって力になるから」

 そのまま教室を出ていった瑛二の背中を見送りながら、瑛二の言う通りかもしれないと思った。現に今も、恭矢は瑛二の言葉に救われている。

 青葉と由宇を救えるなら、手段は選ばない。手を差し伸べてくれるひとがいるなら、戦い方は変わってくる。

 恭矢はある選択と決心をし、あのひとに連絡を取るべく携帯電話を取り出した。