翌日雑貨屋にて、恭矢は自身に起きた出来事を青葉と由宇から聞かされた。
自分の力だけで頑張りたいと啖呵切ってレミリアに乗り込んだ恭矢は、美緒子に記憶を奪われて自宅の庭で眠っていたらしい。
全く覚えていなかったものの、恥ずかしさがじわじわと襲いかかってきた。こんな情けない話を大切な二人に聞かされるなんて、拷問を受けている気分だ。いつものソファーにがっくりともたれ掛かりながら、恭矢は両手で顔を覆った。
「……本当格好悪いな、俺。偉そうなこと言って、何もできなかった」
「そんなこと言わないで。恭ちゃんが無事に帰って来てくれただけで、十分だよ」
青葉の慰めがまた辛い。何もできなかったどころか、記憶まで奪われて次の対応策を練ることもできず、ただ二人を心配させただけの馬鹿だったというのに。
「いや、罵ってくれ。本当、ごめん」
「……ご希望なら罵るわ。相沢くん、あなたはただの見栄っ張りの格好つけよ。わたしにも青葉にも眠れないほど心配されて、それで『格好悪い』『何もできなかった』って謝るなんて、どうしようもない馬鹿だと思う」
由宇は顔を隠していた恭矢の両手を優しく払ったため、恭矢の瞳は正面の彼女をはっきりと捉えた。目の下の隈と白目の充血が、由宇の綺麗な顔を台無しにしていた。
どうやら謝り方を間違えていたようだ。恭矢はもう一度頭を下げた。
「……二人とも、心配かけてごめん」
由宇も青葉も、安心した表情を見せた。それから三人で今後どうするか話をしたが、打開策は出ないまま時間は過ぎ、また後日集まろうという流れになった。
「じゃあ、また。青葉、何かあったらすぐに教えてね」
「うん、由宇ちゃんも」
急接近した姉妹のやりとりを嬉しく思いながらドアを開けて青葉を先に通していると、由宇が何かを恭矢のポケットに入れた。恭矢が尋ねようと口を開きかけると、由宇は目で「後にして」と訴えてきた。
青葉には秘密ということだろうと察した恭矢は、彼女の意図を酌んで青葉を一旦家まで送り、一人になったタイミングでポケットの中を確認した。
中には一枚のメモ用紙が入っていた。
『もし、相沢くんがまだわたしと青葉のために動こうとしてくれるのなら、今日の夜一人でもう一度ここに来てください』
メモ用紙にはそう記載されていた。控えめなようでいて、ものすごく大胆な由宇の誘いに、恭矢には応じる以外の選択肢はなかった。
雑貨屋に戻ってくると、由宇は店の前にある電話ボックスの横に立って恭矢を待っていた。
「こ、小泉!」
ぎょっとした恭矢が慌てて声をかけると、由宇は微笑みを返してくれた。
「外で待ってなくてもよかったのに! 夜に女の子が一人でいたら危ないだろ!」
「いいの。相沢くんを勝手な都合で呼び出しておいて部屋で待っているなんて、わたしの気が済まないから」
普段は穏やかなくせに、変なところで意地っ張りだ。
「……それで、青葉の前では言いづらかったことがあるんだな?」
「それは部屋で話すね。さ、行こう?」
閉店時間を過ぎ人気のない雑貨屋の店内を通って由宇の仕事部屋に着くと、いつもならコーヒーを準備する彼女は電気も点けずに語り出した。
自分の力だけで頑張りたいと啖呵切ってレミリアに乗り込んだ恭矢は、美緒子に記憶を奪われて自宅の庭で眠っていたらしい。
全く覚えていなかったものの、恥ずかしさがじわじわと襲いかかってきた。こんな情けない話を大切な二人に聞かされるなんて、拷問を受けている気分だ。いつものソファーにがっくりともたれ掛かりながら、恭矢は両手で顔を覆った。
「……本当格好悪いな、俺。偉そうなこと言って、何もできなかった」
「そんなこと言わないで。恭ちゃんが無事に帰って来てくれただけで、十分だよ」
青葉の慰めがまた辛い。何もできなかったどころか、記憶まで奪われて次の対応策を練ることもできず、ただ二人を心配させただけの馬鹿だったというのに。
「いや、罵ってくれ。本当、ごめん」
「……ご希望なら罵るわ。相沢くん、あなたはただの見栄っ張りの格好つけよ。わたしにも青葉にも眠れないほど心配されて、それで『格好悪い』『何もできなかった』って謝るなんて、どうしようもない馬鹿だと思う」
由宇は顔を隠していた恭矢の両手を優しく払ったため、恭矢の瞳は正面の彼女をはっきりと捉えた。目の下の隈と白目の充血が、由宇の綺麗な顔を台無しにしていた。
どうやら謝り方を間違えていたようだ。恭矢はもう一度頭を下げた。
「……二人とも、心配かけてごめん」
由宇も青葉も、安心した表情を見せた。それから三人で今後どうするか話をしたが、打開策は出ないまま時間は過ぎ、また後日集まろうという流れになった。
「じゃあ、また。青葉、何かあったらすぐに教えてね」
「うん、由宇ちゃんも」
急接近した姉妹のやりとりを嬉しく思いながらドアを開けて青葉を先に通していると、由宇が何かを恭矢のポケットに入れた。恭矢が尋ねようと口を開きかけると、由宇は目で「後にして」と訴えてきた。
青葉には秘密ということだろうと察した恭矢は、彼女の意図を酌んで青葉を一旦家まで送り、一人になったタイミングでポケットの中を確認した。
中には一枚のメモ用紙が入っていた。
『もし、相沢くんがまだわたしと青葉のために動こうとしてくれるのなら、今日の夜一人でもう一度ここに来てください』
メモ用紙にはそう記載されていた。控えめなようでいて、ものすごく大胆な由宇の誘いに、恭矢には応じる以外の選択肢はなかった。
雑貨屋に戻ってくると、由宇は店の前にある電話ボックスの横に立って恭矢を待っていた。
「こ、小泉!」
ぎょっとした恭矢が慌てて声をかけると、由宇は微笑みを返してくれた。
「外で待ってなくてもよかったのに! 夜に女の子が一人でいたら危ないだろ!」
「いいの。相沢くんを勝手な都合で呼び出しておいて部屋で待っているなんて、わたしの気が済まないから」
普段は穏やかなくせに、変なところで意地っ張りだ。
「……それで、青葉の前では言いづらかったことがあるんだな?」
「それは部屋で話すね。さ、行こう?」
閉店時間を過ぎ人気のない雑貨屋の店内を通って由宇の仕事部屋に着くと、いつもならコーヒーを準備する彼女は電気も点けずに語り出した。