額に当てられたタオルの冷たい感触で目を覚ました。

「……あ! 恭兄ちゃん起きた! 青ちゃーん!」

 何を慌てているのか、桜は大声で台所に走って行った。恭矢は眼球を動かし、ここが自宅で、自分は布団で寝ているのだということを認識した。

 体調不良で倒れでもしたのだろうか。ここで眠るまでの過程がまるで思い出せない。襖が開くと、青葉は真っ青な顔をして恭矢のそばに駆け寄ってきた。体調が悪いのは青葉の方ではないのかと心配になる。

「顔色悪いぞ。大丈夫か?」

「それはわたしの台詞だよ! 恭ちゃん……大丈夫? どこも痛くない?」

 青葉は恭矢の手を握り、泣きそうな顔をした。

「……お母さんと話してみて、どうだった? ひどいことされなかった?」

「……母さん? 仕事から帰って来ているのか? 俺、何か怒られるようなことしたっけ?」

 青葉の言っていることがよくわからず、必死に理解しようと脳味噌を回転させている間に青葉の表情はみるみると陰り、ついには泣き出してしまった。

「……青葉? なんで泣くんだよ」

 体を起こして青葉の手を握り、何度問いかけてみても彼女は泣くだけだった。

「……ごめんね、また記憶を奪われちゃったんだね……」

 恭矢はちっとも状況が掴めず、ひたすら泣き続ける青葉を見た玲と桜が恭矢が泣かせたと大騒ぎするものだから、話は一向に進まなかった。