「……興味深いって、自分の子どもを実験対象みたいな言い方するなよ」
「それは失礼……ところで、君はもう二人とセックスはしたのか?」
デスクの上で手を組んでいた美緒子は椅子にゆったりともたれ掛かり、平然と聞いてきた。対照的に、恭矢は見事に動揺した。
「し、してねえよ! 何言ってんだ!」
「ふっ。あの子らの背中にある刺青は見たのか? と聞きたかったのさ。それと……まあ、これは言っても意味がないか。それにしても、私に似て美人に育った二人のあんなに近くにいながら手を出していないとは、情けない男だね」
美緒子の質問には脈絡がなく、ただでさえ脳味噌の容量と処理能力が追いつかず必死になっている恭矢は、感情まで乱されてたまったものではなかった。
だが美緒子の言葉に、一つの疑問を抱いた。
――待てよ。前に小泉にもこんな質問をされなかったか? あのときは恥ずかしさで流したけれど、能力者と性行為をすることに何か意味があるのか?
恭矢が推理を進めていると、美緒子は何やら意味深な笑みを浮かべていた。これも恭矢の心をかき乱す作戦だと考えると、これ以上気にする余裕はなかった。
「……青葉の痣なら、見たことがある」
「なら話は早いね。刺青が能力発動の最低条件になることは、知っていたかい?」
「……知らなかった。小泉は、その……生理が始まってから能力を使えるようになったと言っていたから、そういうものなんだと思っていた」
「ふうん。知らないことは知らない、わからないことはわからないと言う。うん、君は頭は悪そうだが、素直でいいね。いろいろ話したくなってしまう」
機嫌良さそうに口角を上げる美緒子を見て、この人は本当によくわからないと思った。
「……私はね、生まれた四人の子ども全員に、生後一ヶ月以内に刺青を入れたんだ。大人になってから入れることも可能だけど、より強い能力を持つためには生まれたてが一番だからね。だけど、男には刺青を入れても意味がなかった。能力の発動条件には刺青と、活動している子宮の二つが必要だって知ったのは、恥ずかしながらもう少し後からだったんだよ」
人間の口から発せられている言葉とは思えず、総毛立った。ただでさえ聞きたくない言葉の羅列を浴びせられている中で、今からそれ以上に辛い事実を知ることになりそうな予感がしてならない。
「〈レミリア〉での即戦力を欲していた私は、あの子たちの成長を待つのが苦痛だった。だから夫……というより、優秀な遺伝子を持つゆえに私が父親として選んだ彼らに子育てを託して、一旦姿を眩ませたんだ。のちに成長したあの子たちを迎えた頃に迎えに行って、働かせる計画だったのさ」
あまりにも平然と口にしたその事実を受け止めることができないのは、理解できない、したくない気持ちが大きいのだと思う。
「だけどね、初めに由宇に接触したときに、あの子が言ったんだ。『わたしが青葉の分まで働くから、青葉には関わるな』とね。私も非情ではないからね、由宇の姉としての覚悟に敬意の気持ちを持って、約束を守ってきたわけだよ」
「だったら、約束が違うじゃないか! なんで青葉に接触したんだ!」
声を荒らげる恭矢を見て、美緒子は可笑しそうに笑った。
「いや、約束を破ったのは私ではなく、由宇の方なんだよ。あの子はねえ、はるばる自分の元を尋ねて来た依頼主を、仕事もせずに帰したことがあるようなんだ。……確か、そのときの依頼主は高校生の男だったかな」
瞬時に恭矢の脳裏を過ぎったのは、瑛二だった。恭矢はあのとき、由宇に瑛二の記憶を奪わないよう説得した。
それが美緒子と由宇の間で交わされた約束を破るということに繋がっているのなら、恭矢にも大きな責任がある。
「それは失礼……ところで、君はもう二人とセックスはしたのか?」
デスクの上で手を組んでいた美緒子は椅子にゆったりともたれ掛かり、平然と聞いてきた。対照的に、恭矢は見事に動揺した。
「し、してねえよ! 何言ってんだ!」
「ふっ。あの子らの背中にある刺青は見たのか? と聞きたかったのさ。それと……まあ、これは言っても意味がないか。それにしても、私に似て美人に育った二人のあんなに近くにいながら手を出していないとは、情けない男だね」
美緒子の質問には脈絡がなく、ただでさえ脳味噌の容量と処理能力が追いつかず必死になっている恭矢は、感情まで乱されてたまったものではなかった。
だが美緒子の言葉に、一つの疑問を抱いた。
――待てよ。前に小泉にもこんな質問をされなかったか? あのときは恥ずかしさで流したけれど、能力者と性行為をすることに何か意味があるのか?
恭矢が推理を進めていると、美緒子は何やら意味深な笑みを浮かべていた。これも恭矢の心をかき乱す作戦だと考えると、これ以上気にする余裕はなかった。
「……青葉の痣なら、見たことがある」
「なら話は早いね。刺青が能力発動の最低条件になることは、知っていたかい?」
「……知らなかった。小泉は、その……生理が始まってから能力を使えるようになったと言っていたから、そういうものなんだと思っていた」
「ふうん。知らないことは知らない、わからないことはわからないと言う。うん、君は頭は悪そうだが、素直でいいね。いろいろ話したくなってしまう」
機嫌良さそうに口角を上げる美緒子を見て、この人は本当によくわからないと思った。
「……私はね、生まれた四人の子ども全員に、生後一ヶ月以内に刺青を入れたんだ。大人になってから入れることも可能だけど、より強い能力を持つためには生まれたてが一番だからね。だけど、男には刺青を入れても意味がなかった。能力の発動条件には刺青と、活動している子宮の二つが必要だって知ったのは、恥ずかしながらもう少し後からだったんだよ」
人間の口から発せられている言葉とは思えず、総毛立った。ただでさえ聞きたくない言葉の羅列を浴びせられている中で、今からそれ以上に辛い事実を知ることになりそうな予感がしてならない。
「〈レミリア〉での即戦力を欲していた私は、あの子たちの成長を待つのが苦痛だった。だから夫……というより、優秀な遺伝子を持つゆえに私が父親として選んだ彼らに子育てを託して、一旦姿を眩ませたんだ。のちに成長したあの子たちを迎えた頃に迎えに行って、働かせる計画だったのさ」
あまりにも平然と口にしたその事実を受け止めることができないのは、理解できない、したくない気持ちが大きいのだと思う。
「だけどね、初めに由宇に接触したときに、あの子が言ったんだ。『わたしが青葉の分まで働くから、青葉には関わるな』とね。私も非情ではないからね、由宇の姉としての覚悟に敬意の気持ちを持って、約束を守ってきたわけだよ」
「だったら、約束が違うじゃないか! なんで青葉に接触したんだ!」
声を荒らげる恭矢を見て、美緒子は可笑しそうに笑った。
「いや、約束を破ったのは私ではなく、由宇の方なんだよ。あの子はねえ、はるばる自分の元を尋ねて来た依頼主を、仕事もせずに帰したことがあるようなんだ。……確か、そのときの依頼主は高校生の男だったかな」
瞬時に恭矢の脳裏を過ぎったのは、瑛二だった。恭矢はあのとき、由宇に瑛二の記憶を奪わないよう説得した。
それが美緒子と由宇の間で交わされた約束を破るということに繋がっているのなら、恭矢にも大きな責任がある。