「……別に、怒ってないよ」
「……それと……青葉にもう一つだけ、謝らなきゃいけないことがあるの。わたしは青葉から奪った記憶の中で、相沢くんが青葉にとても優しくしてくれていたことを知った。それから相沢くんがわたしの仕事を知り、一緒に過ごす時間が増えていくにつれて、わたしは……相沢くんのことを、もっと知りたいと欲を抱いてしまったわ」
「……由宇ちゃんがわたしにしてきたことは、わたしのためを思ってのことなんでしょ? だからさっきも言ったけど、わたしは怒ってもいないし、怨んでもいない。むしろ、感謝すらしているよ。……だけど」
青葉は急に怒りを露にして、敵対心丸出しで口にした。
「恭ちゃんだけはあげない。恭ちゃんに手を出そうとしたら、許さないから!」
由宇と接触したことで、感情が制御できないときの青葉になってしまったのだろうか。恭矢への異常な執着心、依存心を見せつけられた由宇は、大きな瞳でしっかりと青葉を見ながら、言い聞かせるように告げた。
「……安心して。わたしは決して、相沢くんのことを好きにならないわ」
「その言葉だけは、信じられないよ。恭ちゃんから自分のことを本当に忘れさせたかったのなら、恭ちゃんが由宇ちゃんの仕事を知ったとき、すぐにでも記憶を消しちゃえばよかったのに。恭ちゃんに少しでも長く、自分のことを覚えていてほしかったんだよね? だから恭ちゃんがおかしくなるまで、そばに置いておいたんだよね?」
「……確かに、すぐにでも記憶を消さなかったのは、相沢くんにわたしのことを知っていてほしいと思ったわたしの我儘だった。でも、男のひととして好きというわけじゃない」
「だったら! 由宇ちゃんはどうして、恭ちゃんの唇にキスしたの? 記憶を消すだけだったら、手でも頬でもどこでもよかったでしょ?」
青葉の詰問に対して、由宇はひどく顔を赤らめ、明らかな動揺を見せた。
「青葉、知っていたの……?」
「……知らないよ。わたしだったらそうするから、由宇ちゃんもそうだろうと思っただけ。……でも言いすぎた、ごめんなさい。恭ちゃんを卑怯なやり方で自分のそばに置いていた、わたしが責められることじゃなかった」
青葉が謝ると、二人はしばらく口を開かなかった。恭矢は二人の会話に、どう入っていいのかわからなかった。
自分についての話をしているようだが、女同士の会話は感情的で抽象的、とても難しくて、詳細を把握できるものではなかったからだ。
「そ、それで……青葉はお母さんに会って、何をされたんだ? 覚えている範囲でいいし、言いたくなければ言わなくてもいいから……できる範囲で話してもらってもいいか?」
恭矢が話を戻そうとすると二人も緊張を解いたようで、この場の空気が少しだけ緩和した。
青葉は緑茶を一口飲んで、ゆっくりと話し始めた。
「……公園内で恭ちゃんを待っていたわたしに声をかけて来た女性――お母さんはね、はぐれてしまった子どもを探してるって言ってた。わたしはお母さんの顔を知らなかったから、綺麗な奥さんだな、としか思わなかった。それで、お母さんが子どもの写真を見せてくれたんだけど……写っていたのは、スーパーで買い物をしているわたしの姿だった」
青葉の手は、小さく震えていた。
「愕然とするわたしに、お母さんは笑いながらわたしのこめかみを押さえつけて、わたしの額に唇を触れさせた。すぐにわたしは意識を失って、目を覚ましたときにはもうお母さんの姿はなかったけれど……たったそれだけで、わたしは……今まで忘れていた記憶を取り戻していたの」
「……それと……青葉にもう一つだけ、謝らなきゃいけないことがあるの。わたしは青葉から奪った記憶の中で、相沢くんが青葉にとても優しくしてくれていたことを知った。それから相沢くんがわたしの仕事を知り、一緒に過ごす時間が増えていくにつれて、わたしは……相沢くんのことを、もっと知りたいと欲を抱いてしまったわ」
「……由宇ちゃんがわたしにしてきたことは、わたしのためを思ってのことなんでしょ? だからさっきも言ったけど、わたしは怒ってもいないし、怨んでもいない。むしろ、感謝すらしているよ。……だけど」
青葉は急に怒りを露にして、敵対心丸出しで口にした。
「恭ちゃんだけはあげない。恭ちゃんに手を出そうとしたら、許さないから!」
由宇と接触したことで、感情が制御できないときの青葉になってしまったのだろうか。恭矢への異常な執着心、依存心を見せつけられた由宇は、大きな瞳でしっかりと青葉を見ながら、言い聞かせるように告げた。
「……安心して。わたしは決して、相沢くんのことを好きにならないわ」
「その言葉だけは、信じられないよ。恭ちゃんから自分のことを本当に忘れさせたかったのなら、恭ちゃんが由宇ちゃんの仕事を知ったとき、すぐにでも記憶を消しちゃえばよかったのに。恭ちゃんに少しでも長く、自分のことを覚えていてほしかったんだよね? だから恭ちゃんがおかしくなるまで、そばに置いておいたんだよね?」
「……確かに、すぐにでも記憶を消さなかったのは、相沢くんにわたしのことを知っていてほしいと思ったわたしの我儘だった。でも、男のひととして好きというわけじゃない」
「だったら! 由宇ちゃんはどうして、恭ちゃんの唇にキスしたの? 記憶を消すだけだったら、手でも頬でもどこでもよかったでしょ?」
青葉の詰問に対して、由宇はひどく顔を赤らめ、明らかな動揺を見せた。
「青葉、知っていたの……?」
「……知らないよ。わたしだったらそうするから、由宇ちゃんもそうだろうと思っただけ。……でも言いすぎた、ごめんなさい。恭ちゃんを卑怯なやり方で自分のそばに置いていた、わたしが責められることじゃなかった」
青葉が謝ると、二人はしばらく口を開かなかった。恭矢は二人の会話に、どう入っていいのかわからなかった。
自分についての話をしているようだが、女同士の会話は感情的で抽象的、とても難しくて、詳細を把握できるものではなかったからだ。
「そ、それで……青葉はお母さんに会って、何をされたんだ? 覚えている範囲でいいし、言いたくなければ言わなくてもいいから……できる範囲で話してもらってもいいか?」
恭矢が話を戻そうとすると二人も緊張を解いたようで、この場の空気が少しだけ緩和した。
青葉は緑茶を一口飲んで、ゆっくりと話し始めた。
「……公園内で恭ちゃんを待っていたわたしに声をかけて来た女性――お母さんはね、はぐれてしまった子どもを探してるって言ってた。わたしはお母さんの顔を知らなかったから、綺麗な奥さんだな、としか思わなかった。それで、お母さんが子どもの写真を見せてくれたんだけど……写っていたのは、スーパーで買い物をしているわたしの姿だった」
青葉の手は、小さく震えていた。
「愕然とするわたしに、お母さんは笑いながらわたしのこめかみを押さえつけて、わたしの額に唇を触れさせた。すぐにわたしは意識を失って、目を覚ましたときにはもうお母さんの姿はなかったけれど……たったそれだけで、わたしは……今まで忘れていた記憶を取り戻していたの」