「相沢くんに、青葉……?」

 由宇は恭矢の存在よりも、青葉に驚いているようだった。恭矢から外れた視線は、ずっと青葉を見つめていた。

「……久しぶりだね、由宇ちゃん」

「なんで……? どうしてわたしのこと……?」

 由宇の表情は今までみたこともないほど狼狽していたが、青葉は迷いなくしっかりと由宇の瞳を見つめていて、恭矢の持つ印象の二人とは正反対だった。

「……わたしね、お母さんに会ったんだよ」

 青葉が生まれてすぐに失踪したという母親のことを、恭矢は何も知らない。だが、由宇は青葉の一言で察するに十分だったらしい。

「……座って」

 ゆっくりとした瞬きの後で、そう促した。ソファーに腰掛けていると、由宇は恭矢と青葉の分の湯のみを、ローテーブルに置いた。

「あれ、コーヒーじゃないんだ?」

 恭矢の記憶では、由宇はホットコーヒーを好んでいて、いつも恭矢にも淹れてくれたはずだ。

「うん……相沢くん、コーヒー苦手だって言っていたから」

 申し訳なさそうに口にする由宇を見て、恭矢は記憶を失う前に彼女にひどいことを言ったことを思い出した。由宇が恭矢との関わりを絶とうと決意した、夏休み前のあの日。もし過去に戻れるのなら、あの辺りの生活や態度を全部やり直したい。

「……今更なんだけど、ちゃんと謝らせてほしい。俺、小泉にひどいこと言った。本当にごめん」

「謝らないで。お願い」

 恭矢が顔を上げると、由宇はどこか寂しげな表情をしていた。そんな顔を見たくなくて、恭矢は目の前にある湯のみを持ち上げ、緑茶を一気飲みした。

「ご馳走様でした! でも俺、コーヒーが飲みたいな。俺、ここにいるときはコーヒーじゃないと落ち着かないから」

 由宇も青葉もきょとんとした顔で恭矢を見ていたが、図々しく湯のみを由宇に突き出すと、彼女はカップに熱いコーヒーを注いでくれた。

「……無理しないでね」

「無理してないよ。あー、やっぱり慣れてきたのかな? 前より美味しく感じるわ」

 久々に飲むコーヒーは、やっぱりどうしたって苦かった。だけど恭矢はそんな素振りを微塵も見せないように、黒い液体をぐっと飲み込んだ。

 青葉が由宇に目配せをした。由宇が頷くと、青葉は再び恭矢の手を握った。

「恭ちゃんには言わなくちゃいけないと思う。あのね、わたし綾瀬青葉と小泉由宇は……異父姉妹なの」

 唐突すぎて、言葉の意味を瞬時に理解できなかった。
 二人とも今は母親と暮らしていないことだけは知っていたが、まさか――。

「……冗談だろ?」

「相沢くんは、わたしと青葉が似ていると思ったこと、一度もない?」

 確かに、二人に近いものを感じたことがあった。それに、恭矢が由宇に幼馴染がいると話したとき彼女は『どんな女の子?』『セックスしたことある?』

 恭矢は一言も幼馴染の性別を言っていないのに、そう口にした。どうして、青葉が女だとわかったのだろう。

 はっとして二人を見たとき、彼女たちが纏う雰囲気の説得力に、息を呑んでしまった。