息を切らし、手に膝をつきながら呼吸を整えていると、焦りと後悔が胸中を埋め尽くしていく。それらを振り払うようにして、恭矢は再び走り出した。

 広大な公園内を一周して辺りがすっかり暗くなってしまった頃、ビニールシートを敷いていた場所に戻って来た恭矢は人影を確認した。

 その人影こそ、恭矢が必死になって捜し続けた彼女だった。

「――青葉!」

 青葉は返事をせず、暗闇の中で動かなかった。

「どこ行ってたんだよ! 心配したんだぞ!」

 走り回っていた恭矢はシャツが濡れるほど汗をかいていたが、握った青葉の手は不自然なくらい冷たかった。恭矢が声をかけても、青葉は下を向いて顔を上げようとしなかった。

 痺れを切らした恭矢が青葉の頬を両手で挟んで無理やりに顔を上げさせると、青葉は声も出さずに泣いていた。心が痛くなるその悲痛な顔に、嫌な想像が掻き立てられた。

「青葉、お前……何か、されたのか?」

 自分で口にしておきながら、ぞっとするような響きだった。

「……ううん。恭ちゃんが想像しているようなことは、されてないよ……」

 少しだけ安堵したものの、青葉はなかなか恭矢の目を見ようとしなかった。青葉が何か隠し事をしていると思った恭矢は、青葉の許可もなく彼女を抱き締めた。

 青葉はこういうとき、言葉で追及しようとしてはいけない。まずは態度で、青葉を責めるつもりはないと伝えることが大事なのだと、長年の付き合いから知っていたからだ。

「……ごめんね。いつだってわたしは、恭ちゃんの優しさに甘えちゃうから」

「謝らなくていい。青葉に甘えているのは俺の方なんだから」

「恭ちゃんがわたしの扱いに慣れていることをいいことに、自分を変えようともしないで愛されることばかり考えていたんだよね。だから恭ちゃんはちゃんと自分を持っていて、一人で生きていける強さを持つひとに惹かれたんだ」

「……青葉?」

「でもそのひとは、強い自分を他人に見せるのが上手なだけで、別に強いわけじゃないんだよ。恭ちゃんはそれがわかったから、余計にそのひとを好きになったの。わたしとは全然違う」

 青葉が青葉ではないような錯覚を覚えた。それは可愛くて、気立てが良くて、家事万能で、恭矢に一途な幼馴染という、そんな理想の偶像を思わせることを促してきた彼女が見せた暗部だった。

「……どうしたんだよ、青葉らしくないな。やっぱり何かあったんだろ? 言ってよ。俺は青葉が何を言っても、離れたりしないから」

「――ウソツキ。多分、恭ちゃんはわたしから離れるよ」

 青葉は何もかもを諦めたように、悲しい顔をして笑った。

「……ウソツキ呼ばわりは心外だぞ」

 青葉の拗ねたような口ぶりには反論せざるを得なかったが、腕の中にいる青葉は恭矢の心臓に耳を当て、少しは落ち着いたように見えた。

 だが、それは恭矢の思い込みに過ぎなかった。
 この後、恭矢は自分がいかに阿呆かを思い知ることになる。