とにかく謝ろうと再び口を開こうとしたが、

「……そうよね、ごめんなさい」

 寂しそうに笑った由宇の顔を見て、何も言えなくなってしまった。彼女の顔が、初めて会ったときのような建前の仮面で隠されていく。

 恭矢は取り返しのつかない過ちを犯してしまったのだ。

 由宇はもう一歩恭矢に近づいたが、物理的には近づいても、彼女がとても遠くにいる存在に思えた。

「もっと早く気がつけばよかった。相沢くん。あなたは……わたしとだけは一緒にいてはいけないわ」

「……なんで、そんなこと言うんだよ。俺がそばにいると安心するって言ったのは、小泉なのに。ひどいことを言ったのは謝るよ。ごめん、どうかしてたんだ」

 ふて腐れたような口調になってしまったことを後悔しても、もう遅い。

「楽しい思い出も、嬉しい思い出も、素敵な思い出も、それから……忘れてしまいたい、辛い思い出も。そのひとの人格を形成する大切なものなの。だから相沢くんはわたしにたくさんの思い出をくれた反動で、少しずつ性格が変わってしまったのね。相沢くんが相沢くんの良いところを少しずつ失っていくことに、わたしは耐えられない」

「そんなあっさりさ、他人事みたいに淡々と話すのはやめろよ! それは小泉が仕事をしてきた中で思ったことだろ? 俺は変わってないよ! これからも小泉に楽しい記憶を渡していくつもりだよ! だって、俺は小泉の笑顔が、」

 好きだから、と続けられなかった。由宇を友人の範囲内で幸せにしたいと思っていたはずなのに、彼女を支える勇気が足りなかったことを自覚した。

 喉元まで出かかった言葉を飲み込むと、自分の弱さを凝縮した苦い味しかしなかった。由宇はそんな恭矢を見て、目を逸らした。