結局恭矢は、自分一人のための遊び方を知らないのだ。金を持っても時間があっても、どう使っていいのかわからない。だからこんなに時間が過ぎるのが長く感じる。こんなに空虚な時間に思える。

 どうすればいい? 俺は、どうやって生きていけばいい? 

 川の上にかかる橋の真ん中、緩やかな下りに差し掛かる途中で足を止めた恭矢は、一歩も動けなくなってしまった。歩き出せば下り坂だから楽に進むだろう。

 だけど、葛藤せずにはいられない。一度下ってしまえば、戻るときは大変な困難になることがわかっていたからだ。

「――相沢くん!」

 葛藤の海から恭矢を現在に引っ張り上げたのは、誰かの声だった。恭矢は顔を上げて、その声の主を確認した。

 小泉由宇が、恭矢を見据えて橋のふもとに立っていた。言葉を失っている恭矢のそばまで、彼女は息を切らしながら走って近づいてきた。

「……なに?」

「よかった、見つけられて。ずっと探していたの。教室から出たとき、様子がおかしかったから気になって」

「ずっと俺を探していたとか……おかしな言い方するよな。そんなに俺に恩を着せたいの?」

 棘のある言い方だとはわかっていたけれど、由宇の言葉に苛立ちを隠せなかったのは事実だ。

「……確かに、相沢くんが教室を出て行った三時間目は授業が終わるまで待った。それがあなたを不快にさせてしまったのなら、謝るしかない。本当にごめんなさい」

 ……三時間目だって? 午前中に早退した俺を、すぐに追いかけた? 

 それが本当だとしたら、恭矢が遊び回っている間、由宇にまで授業をさぼらせて心配をかけてしまったことになる。恭矢が取った行動が、彼女の負担になってしまったことになる。

 由宇を幸せにしたいと、笑顔が見たいと思って行動してきたはずなのに。頭を下げる由宇の頭頂部を見ながら、恭矢は叫び出したくなった。

「相沢くん、聞いて。わたしね、」

「……待ってくれ。今は何も聞きたくない」

「ごめんなさい、どうしても言わせてほしいことがあるの。お願い、聞いて」

 恭矢が抑え込んでいられる感情の容量はもう限界だった。何をしてもおかしくない状態にまで追い詰められていたのだ。

 由宇は恭矢に近づき、彼の手を握った。彼女の柔らかい肌に青葉を蹂躙しようとした自分の情けない姿を思い出し、爆発してしまった。白い手を強引に振りほどき、

「なんか俺、小泉の仕事を知ってから辛いことばっかりなんだよな」

 いくら荒んでいるとはいえ、由宇が最も傷つくであろう言葉を吐いてしまった。由宇は顔面を蒼白させ、硬直して動かなかった。

 恭矢を頼り、素顔を見せてくれるようになった彼女は今、何を思っているのだろう。裏切られたように感じているのだろうか。