「じゃあ熱を測るね。体温計、脇に挟むよ?」

 無防備に近くにきた青葉を無言で抱き締めて、押し倒した。青葉の手首は驚くほど細くて、恭矢が掴んだ途端に彼女は自由を絡め取られた。恭矢の下で怯えた顔を見せながらも、青葉は抵抗しなかった。

 恭矢はちっとも優しくないキスを青葉の首筋に降らせて、強引に髪を梳いた。聞き慣れた青葉の声の中に、聞いたことがない声が混ざる。甘い匂いの中に漂う確かな色気に、長年見てきた幼馴染がまるで違う女に見えて興奮した。

 最低だ。青葉を傷つけるためにやっている行為で、喜んでいることになる。

 最悪だ。それなのに、なかなかやめることができない。

「……恭ちゃん……わたしを、抱くの?」

 ――きっと、青葉は俺を受け入れる。俺がいないと生きていけないからだ。

 恭矢がどんなに酷いことをしても、どれだけ自己中心的に振り回しても、たとえその瞬間こそは涙を浮かべても、青葉は翌朝には笑顔で接してくれるだろう。だったら、欲望のままに抱いたっていいじゃないか。

 自分に都合のいい言い訳を振りかざしながら、青葉の質問に答えることもなく、ついに恭矢は彼女の唇を奪った。間抜けな話だが、信じられない柔らかさに触れてようやく、恭矢は自分が間違ったことをしていると我に返った。

 なんて愚かなことをしてしまったのだろう。唇を離したあと、後悔で動けなくなった。気づくのがあまりにも遅かった。

「どうしたの……? 顔色、すごく悪いよ?」

 恭矢を心配する青葉の優しさに、耐えられなかった。

「ごめん……!」

 恭矢は青葉から離れ、その後はひたすらに謝罪を繰り返した。

 気がつけば青葉はいなくなっていて、恭矢は久しぶりに長い一人の時間を手に入れた。

 だがそれは恭矢が思っていたより落ち着くものではなく、先程まで青葉に行なった最低な行為や自分の性格の悪さを振り返る時間となり、苦痛でしかなかった。