「じゃあお前は、ただの幼馴染に俺たち家族の面倒を見させているってことか!? そんな阿呆な話があるか!」
「知らねえよ! 青葉が勝手に俺のそばにいるんだ! 頼んだわけじゃない!」
最低なことを口にしたのだとわかったが、瞬時に反省してももう遅い。修矢が拳を振り上げ殴られると確信したとき、桂が恭矢の胸倉を掴み、低い声で告げた。
「……青葉を、あんたにとって都合のいい女にするんじゃないわよ」
頭に響く至極真っ当な言葉に、何も言えなかった。
「――はい、そこまでにしてちょうだい」
恭矢の胸倉を掴む桂の手が緩んだ。声のした方へ振り向くと、仕事帰りの母と、目を真っ赤にしている青葉の姿があった。
――どこから聞いていた? 恭矢は心臓を鷲掴みにされたような罪悪感で、青葉の顔を見ることが出来なかった。
「あんまり恭矢を責めないで。青ちゃんに甘えた生活をしている現状は、お母さんが一番悪いんだから」
「でも母さん、こいつは!」
「修矢。お願いよ」
母に諭され、修矢は黙った。桂は恭矢から手を離し、母と青葉に座るように促してから飲み物を用意し始めた。
仕切り直しの空気の中で、何を言っていいのかわからない恭矢と、機嫌の悪そうな修矢、顔を上げようとしない青葉が言葉を発することはなかった。
そんな三人の顔を見ながら、母は穏やかに語り出した。
「兄ちゃんたちはああ言うけどね、お母さんは恭矢に好きな子が出来て、その子を幸せにしたいって考えられるなら、立派な男の子になったもんだなあって思えて嬉しいよ。そりゃあね、お母さんたちは青ちゃんが大好きだから、あんたが選ぶ女の子が青ちゃんであればいいなとは思うけど……そう思える相手が青ちゃんじゃないなら、ケジメをつけなさい。修矢も落ち着いて。長男のあんたが家族のことに口を出したいのはわかるけど、ちょっと言いすぎだよ。あんたの知らないところで色んなことがあるんだから」
母は恭矢の方を見て、隣で放心している青葉の肩を優しく叩いた。
「さ、恭矢。青ちゃんを家まで送って行ってあげて。青ちゃんは修矢たちが怖い顔をして自分を追い返したから、恭矢が何か言われるんじゃないかって心配で、母さんを呼んできてくれたのよ? ちゃんとお礼言っておきなさい」
「……うん。青葉、送って行くよ」
恭矢は立ち上がって青葉の手を握った。修矢と桂が青葉を気遣う言葉を口にしていたけれど、彼女の耳には届いていないようだった。それでも恭矢が手を握ると青葉は立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。
「知らねえよ! 青葉が勝手に俺のそばにいるんだ! 頼んだわけじゃない!」
最低なことを口にしたのだとわかったが、瞬時に反省してももう遅い。修矢が拳を振り上げ殴られると確信したとき、桂が恭矢の胸倉を掴み、低い声で告げた。
「……青葉を、あんたにとって都合のいい女にするんじゃないわよ」
頭に響く至極真っ当な言葉に、何も言えなかった。
「――はい、そこまでにしてちょうだい」
恭矢の胸倉を掴む桂の手が緩んだ。声のした方へ振り向くと、仕事帰りの母と、目を真っ赤にしている青葉の姿があった。
――どこから聞いていた? 恭矢は心臓を鷲掴みにされたような罪悪感で、青葉の顔を見ることが出来なかった。
「あんまり恭矢を責めないで。青ちゃんに甘えた生活をしている現状は、お母さんが一番悪いんだから」
「でも母さん、こいつは!」
「修矢。お願いよ」
母に諭され、修矢は黙った。桂は恭矢から手を離し、母と青葉に座るように促してから飲み物を用意し始めた。
仕切り直しの空気の中で、何を言っていいのかわからない恭矢と、機嫌の悪そうな修矢、顔を上げようとしない青葉が言葉を発することはなかった。
そんな三人の顔を見ながら、母は穏やかに語り出した。
「兄ちゃんたちはああ言うけどね、お母さんは恭矢に好きな子が出来て、その子を幸せにしたいって考えられるなら、立派な男の子になったもんだなあって思えて嬉しいよ。そりゃあね、お母さんたちは青ちゃんが大好きだから、あんたが選ぶ女の子が青ちゃんであればいいなとは思うけど……そう思える相手が青ちゃんじゃないなら、ケジメをつけなさい。修矢も落ち着いて。長男のあんたが家族のことに口を出したいのはわかるけど、ちょっと言いすぎだよ。あんたの知らないところで色んなことがあるんだから」
母は恭矢の方を見て、隣で放心している青葉の肩を優しく叩いた。
「さ、恭矢。青ちゃんを家まで送って行ってあげて。青ちゃんは修矢たちが怖い顔をして自分を追い返したから、恭矢が何か言われるんじゃないかって心配で、母さんを呼んできてくれたのよ? ちゃんとお礼言っておきなさい」
「……うん。青葉、送って行くよ」
恭矢は立ち上がって青葉の手を握った。修矢と桂が青葉を気遣う言葉を口にしていたけれど、彼女の耳には届いていないようだった。それでも恭矢が手を握ると青葉は立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。