売れ残りの惣菜を半額で手に入れるチャンスが多いかもと期待して始めたスーパーでのアルバイトは、高校に入ってすぐに始めたので勤務歴は一年ちょっとになる。

「いらっしゃいませー!」

 恭矢は明るい声と笑顔で余計なことを考える暇もなく、ひたすらレジ打ちに励んだ。今日は水曜日。ポイント二倍デーで客足はいつもより多く、恭矢は目を回しながら二十二時の定時まで乗り切った。

 疲れた体を引きずりつつ従業員室で帰り支度をしていると、主任の森下がパックに入った二個入りメンチカツを持ってやって来た。

「お疲れ~恭ちゃん、半額だけど買ってく?」

「あ、買います買います!」

 恭矢が財布を取り出そうと鞄を漁っていると森下は楽しそうに、

「今日の青葉ちゃんのごはんはなんだろうねえ~? じゃがいもと人参、玉ねぎを買っていったから、あたしの予想だとカレーよ!」

「そっすか? 俺の長年の付き合いから来る勘は、肉じゃがだと言っています」

「そーお? 今朝の番組でカレー特集やっていたからカレーだと思うわよ? 惣菜を賭けてもいいわ」

「あー! 後出しひどい! でも長年の付き合いの勘とか言った後で、撤回するのも……うう、わかりました! 今日カレーだったら、次に森下さんとシフト被ったときに一発芸でもやります」

 貧乏人の恭矢には食材を賭けることなんてできないため、体を張るしかない。森下にメンチカツの代金を払うと、彼女はにっこりと笑いながらしみじみ言った。

「恭ちゃんはいいわよね、可愛い彼女がいて! 羨ましいわあ~」

「だから、青葉とはそんなんじゃないんですって」

「相変わらずの返しねー。青葉ちゃんってさ、色白で背も高いしスラッとしているのに出るトコは出ているから、モデルさんみたいじゃない? 最近前髪も伸ばしているせいかぐっと大人っぽくなってさー。ねえ、ムラムラしないの?」

「あんた、青葉のこと見すぎだろ!」と言いたい気持ちを、恭矢はぐっと堪えた。失言は井戸端会議の格好のネタになることを重々承知している。言質を取られぬよう心して挑まねば。

「もー、思春期をからかわないでくださいよ。青葉が髪を伸ばしているのは、切りに行くのが面倒だから! 色白なのは引きこもりだから! スタイルがいいのは元々の体質です!」

「……でも、可愛いとは思っているんでしょ?」

「そりゃあ、可愛いですよ! ……あ」

 気をつけようと思った矢先にやらかしてしまった恭矢は、頭を抱えた。

「あはははは! まあいいわ。青葉ちゃんに『いつもご利用ありがとうございます』って言っておいて」

「う、うっす! それじゃあ、失礼します」

 半額で手に入れたメンチカツと引き換えにパートのおばちゃんたちに冷やかされることが確定した恭矢は、明日をどう乗り切るか考えただけで憂鬱となった。