瑛二は毎日部活に精を出し、恭矢も相変わらずバイトに励んでいた。お互い自分たちの苦労をからかい合い、励まし合いながら中間テストという難関を無事に乗り切ると、暦は六月になっていた。

 衣替えで夏服へ切り替わったことでより露になった由宇の細くて白い肌は、恭矢のテンションを大きく上昇させた。気づかれないように目で追いかけているつもりだったのだが、

「バレバレだ恭矢。訴えられないように自重しろ」

 と、友人たちに何度もからかわれた。だが衣替えと時を同じくして、瑛二に変化があった。部活の話を全くしなくなったのだ。

 恭矢はバスケ部の友人から、瑛二が練習をサボって毎日遅くまで遊び回っていると聞いた。瑛二は誰が見てもわかるほどに緊張感がなく、だらしない雰囲気を纏っていた。

 瑛二がレギュラー争いに敗北したことを悟ったが、選ばれなかったからといってここまで堕落した毎日を過ごしていては、三年生が引退してからのバスケ部でやっていけないのでは? 心配になった恭矢はおせっかいだとは思いながらも、ホームルームが終わっても席から立ち上がろうとしない瑛二に、避けていた部活の話を振ってみた。

「瑛二、部活はいいのか?」

「……いいんだよ。どうせ俺スタメンじゃねえしさ、練習にいなくても変わんねえだろ」

「そういう問題じゃないだろ? 毎日の努力の積み重ねが大事なんだって、お前が言ったんじゃねえか」

 この言葉が瑛二の逆鱗に触れたようだ。瑛二は目の色を変えて恭矢を睨みつけた。

「努力なんか意味ねえんだよ! 結果を出せなきゃただの時間の無駄なんだ! 部活をやっていないお前が、偉そうなこと言うんじゃねえよ!」

 そう吐き捨てて走り去っていく瑛二を、恭矢は追うことができなかった。あんなに快活で優しい男が、黒い感情を喚き散らして八つ当たりをして、目の前の壁から尻尾を巻いて逃げていることが信じられなかったのだ。

「……相沢くん。今、ちょっとだけいいかしら?」

 教室内では恭矢に話しかけることのなかった由宇が話しかけてきたということは、今すぐに伝えたい大事な話があるに違いない。

「わかった……ちょっとだけ待ってて。バイト先に遅れるって電話してくるから」

 エイルに電話をかけ、学校の用事で遅れると店長に嘘をついた。通話を切ると思っていた以上に良心が傷んだ。