「てっとり早く金を稼ぐ方法ってないかなー。犯罪以外でさー」

 土日は度々電車が止まってしまうほどの暴風雨だった。そんな悪天候の中でアイドルのライブ会場スタッフとして働いた恭矢は、交通整理や理不尽なクレームで体力を使い果たしてしまい、弱っていた。

「うーん、玲ちゃんや桜ちゃんをアイドルにするとか?」

 青葉は恭矢の心境を察してか、貧乏な家計をやりくりして夕食を奮発してくれた。もも肉を使ったからあげなんて久しぶりである。

「それは許さん。芸能界なんて入ったら、変な男がいっぱい寄ってくるだろ! 追っかけに『この写真を週刊誌に売ってほしくなかったら……』とかプロデューサーに『この世界で売れたかったら……』とか言われて手を出されたらどうするんだよ」

 恭矢はからあげの歯ごたえを堪能しつつ、青葉の提案を全面的に却下した。

「偏見でそこまで妄想して自分を追い詰めなくても……じゃあ、恭ちゃんがアイドルやる?」

「俺は音痴だから駄目だ」

「あー、そうだね」

 否定されなかったことに肩を落とした。龍矢に賭けるしかないなと、十年後の龍矢を想像してしみじみとしながら葱多めの味噌汁を啜った。

「ねえ。恭ちゃんは、将来の夢ってないの?」

「……んー、なるべくお金が稼げる仕事に就くことかな」

「ちっとも具体的じゃないよー」

 青葉の問いに適当な返事で誤魔化したのは、将来の夢について誰かに一度も話をしたことがなかったからだ。

 恭矢が本当にやりたいことは、金がないとできないことだった。別に貧乏な家庭を怨んだことはないし、冗談で皮肉を言うときはあっても、裕福な家庭を妬んだこともない。俺は俺の人生をなるべく楽しみながら生きて生きたい。

 なんて、前向きに考えている自分はそんなに嫌いではなかった。