『ねえ、大学行っても大道具続けるの?』
『俺? そのつもりだけど。お前は役者は?』
『もちろん、続けるよ。演劇楽しいしね』
「…………カット! 良かったと思う。みんなで映像チェック!」
桜さんがよく通る声で叫ぶと、藤島さんと永田君はふうっと肩の力を抜いた。
さすが演劇部。演じる役も演劇部ということも大きいかもしれないが、自然体の会話が撮れている。
「ソウ君、再生して」
カメラに取り付けられた、少年コミックくらいの大きさのモニター。これなら全員で見られる。
「大丈夫かな? じゃあ、オッケーです! これでカット70も終了、と」
自分の絵コンテに赤いボールペンでバツ印をつける桜さん。これでカット67から4連続、NG無しで進んでいる。
基本的には、動きと台詞の確認→撮影→映像の確認→問題なければ次のカット、という流れだけど、5~6秒の短いカットなので比較的スムーズに撮れていた。
「んっと、次は……そのままカット71、佳澄がカーテンに巻き付いて遊ぶシーンね。まったく、誰よ、こんなはしゃいでる高校生書いたの」
自虐ネタに、カチンコを持った雪野さんがニヤッと口角を上げた。2回目以降、桜さんは監督らしくずっと演技を見る役に徹し、唯一手の空いていた彼女が担当になっている。
「ここは始め佳澄ソロで、あとから和志が接近ね。ソウ君、カメラ移動。今のうちにカチンコ直しちゃうわ。佳澄は今のうちに動きの練習しておいて」
ミニ黒板消しで白チョークを落とす桜さん。「SCENE」「CUT」「TAKE」と印字された欄に数字を書き込んでいく。
「昔の撮影道具のイメージなんで、今も使ってるとは思いませんでした」
「そんなことないわよ、意外と大事なの。これを画面に入れておけば、動画再生したときに、すぐにどのシーンか分かるでしょ? 後でどれがどのカットを撮ったものか確認するのに役に立つわ」
そうか、たしかに映像見ただけじゃすぐにどのカットか分からないもんな。
テイク数も書いておけばどれが監督オッケー出たものかも分かるし。
「もちろん『雰囲気が出る』ってのも大きいけどね」
「分かります。『映画っぽい』ですよね!」
「ふふっ、ねー!」
笑顔で首をクッと傾ける。こうやって無邪気にしていると、年下みたいな可愛らしさもあるなあ。
「よし、カメラ位置はここだな。葉介、さっきのカード、教えてやるよ」
颯士さんに呼ばれ、カメラの前まで行くと、彼はスマホでWEBサイトを開き、2枚の写真を見せてくれた。
「これは光の色を調整するための設定なんだ。光ってのは人間には大体白っぽく見えるんだけど、種類によって若干違うんだぜ。ほら、この写真、電球と自然の光で全然違うだろ?」
「……ホントだ!」
電球の光が当たっているテーブルクロスの写真では、クロスが黄色く見える。一方で、太陽の当たってる雪山の方は、雪が青っぽく見えた。
「人間の目は高機能だからどっちも白って認識するけど、カメラは色味をそのまま映すから、肉眼で見るよりも黄色や青が強く見える。そうすると、屋内と屋外とか、朝と昼とか、カットごとに違う『白っぽさ』になるんだよ」
「ああ、それは見てる人も気になるかもしれませんね」
「だから、こうやって基準になる灰色のカードをカメラに映して、その色をもとに『今の場所では、これが白、これが黒』ってのを設定するんだ。そうすれば場所や時間が変わっても同じトーンになる」
立て板に水で話す颯士さんの話を聞きながら俺の胸に去来したのは、賞嘆と嫉妬だった。
映画はカメラさえ準備できればいいと思ってたけど、そんなことはなかった。
照明や光にも気を遣って、マイクの位置も考えて、それぞれ準備していく。「高校生なのに、ここまでやるのか」という軽く呆れるほどの拘りと、それを当たり前のようにやっている部員のみんなの職人気質。
スポーツでプロ選手並の超絶技ができるとか、楽器で心躍るソロ演奏ができる、みたいな華やかさはないけど、なんだかとても憧れる。
『俺? そのつもりだけど。お前は役者は?』
『もちろん、続けるよ。演劇楽しいしね』
「…………カット! 良かったと思う。みんなで映像チェック!」
桜さんがよく通る声で叫ぶと、藤島さんと永田君はふうっと肩の力を抜いた。
さすが演劇部。演じる役も演劇部ということも大きいかもしれないが、自然体の会話が撮れている。
「ソウ君、再生して」
カメラに取り付けられた、少年コミックくらいの大きさのモニター。これなら全員で見られる。
「大丈夫かな? じゃあ、オッケーです! これでカット70も終了、と」
自分の絵コンテに赤いボールペンでバツ印をつける桜さん。これでカット67から4連続、NG無しで進んでいる。
基本的には、動きと台詞の確認→撮影→映像の確認→問題なければ次のカット、という流れだけど、5~6秒の短いカットなので比較的スムーズに撮れていた。
「んっと、次は……そのままカット71、佳澄がカーテンに巻き付いて遊ぶシーンね。まったく、誰よ、こんなはしゃいでる高校生書いたの」
自虐ネタに、カチンコを持った雪野さんがニヤッと口角を上げた。2回目以降、桜さんは監督らしくずっと演技を見る役に徹し、唯一手の空いていた彼女が担当になっている。
「ここは始め佳澄ソロで、あとから和志が接近ね。ソウ君、カメラ移動。今のうちにカチンコ直しちゃうわ。佳澄は今のうちに動きの練習しておいて」
ミニ黒板消しで白チョークを落とす桜さん。「SCENE」「CUT」「TAKE」と印字された欄に数字を書き込んでいく。
「昔の撮影道具のイメージなんで、今も使ってるとは思いませんでした」
「そんなことないわよ、意外と大事なの。これを画面に入れておけば、動画再生したときに、すぐにどのシーンか分かるでしょ? 後でどれがどのカットを撮ったものか確認するのに役に立つわ」
そうか、たしかに映像見ただけじゃすぐにどのカットか分からないもんな。
テイク数も書いておけばどれが監督オッケー出たものかも分かるし。
「もちろん『雰囲気が出る』ってのも大きいけどね」
「分かります。『映画っぽい』ですよね!」
「ふふっ、ねー!」
笑顔で首をクッと傾ける。こうやって無邪気にしていると、年下みたいな可愛らしさもあるなあ。
「よし、カメラ位置はここだな。葉介、さっきのカード、教えてやるよ」
颯士さんに呼ばれ、カメラの前まで行くと、彼はスマホでWEBサイトを開き、2枚の写真を見せてくれた。
「これは光の色を調整するための設定なんだ。光ってのは人間には大体白っぽく見えるんだけど、種類によって若干違うんだぜ。ほら、この写真、電球と自然の光で全然違うだろ?」
「……ホントだ!」
電球の光が当たっているテーブルクロスの写真では、クロスが黄色く見える。一方で、太陽の当たってる雪山の方は、雪が青っぽく見えた。
「人間の目は高機能だからどっちも白って認識するけど、カメラは色味をそのまま映すから、肉眼で見るよりも黄色や青が強く見える。そうすると、屋内と屋外とか、朝と昼とか、カットごとに違う『白っぽさ』になるんだよ」
「ああ、それは見てる人も気になるかもしれませんね」
「だから、こうやって基準になる灰色のカードをカメラに映して、その色をもとに『今の場所では、これが白、これが黒』ってのを設定するんだ。そうすれば場所や時間が変わっても同じトーンになる」
立て板に水で話す颯士さんの話を聞きながら俺の胸に去来したのは、賞嘆と嫉妬だった。
映画はカメラさえ準備できればいいと思ってたけど、そんなことはなかった。
照明や光にも気を遣って、マイクの位置も考えて、それぞれ準備していく。「高校生なのに、ここまでやるのか」という軽く呆れるほどの拘りと、それを当たり前のようにやっている部員のみんなの職人気質。
スポーツでプロ選手並の超絶技ができるとか、楽器で心躍るソロ演奏ができる、みたいな華やかさはないけど、なんだかとても憧れる。