君と見る空は、いつだって青くて美しい




 昼ごはんを食べ終わり、私と真宙くんは海を見ている。



「希空ちゃん、
 一曲、歌ってもいい?」


 そのとき。
 突然、真宙くんはそう言った。


「う……うん」


 真宙くんの言ったことに驚きながらも、そう返事をした。


「では」


 真宙くんは大きく深呼吸をした。

 そして真宙くんは歌い始めて……。


 え……⁉

 この歌って……。


 真宙くんの歌に驚き過ぎて声が出なかった。


 だって真宙くんが歌っている歌は……。


『blue sky』の『青の世界』―――――。


 私の大好きな歌手『blue sky』の歌だったから―――。


 似ている……。

 真宙くんの歌声が……。

『blue sky』の声に……。


 何がどうなっているの……?

 ものまね……?

 それとも偶然、真宙くんの歌声が『blue sky』の声に似ているだけ……?



「あー、スッキリした」


 そう思っている間に、真宙くんは歌い終わっていた。


「どうだった? 俺、上手に歌えてた?」


 なにがなんだかわからない。

 戸惑いを残しながら頷いた。


「本当に上手だね、真宙くん。
 本物の『blue sky』が歌ってるみたいだった」


 戸惑ってはいる。
 けれど。
 感動もしている。


「すごく感動した。ありがとう、真宙くん。
 大好きな『blue sky』の曲を歌ってくれて」


 すごく感動した私は真宙くんに『ありがとう』を言わずにはいられなかった。


「そんなに上手く歌えるなんて、すごく練習したの?」


「…………」


 真宙くん?


 真宙くんは無言になっている。


 何かまずいことでも訊いてしまったのか。
 そう思うと、少し心配になってきた。


「すごく練習したというか……
 この曲、俺が歌っている曲だから」


 そのとき。
 真宙くんが口を開いた。


 のだけど……。

 今、なんて……。


「だって俺、『blue sky』だもん」


 え……。

 えぇっ⁉




 えっ⁉ えっ⁉ えっ⁉

 まっ……真宙くんが『blue sky』⁉

 それとも、私の聞き間違い⁉


「まっ……真宙くん、今の……」


「今の話? うん、『blue sky』の正体は俺だよ」


 はっきりと認識した。

『blue sky』の正体は真宙くんだって。


「びっくりした?」


 今、目の前に大好きな『blue sky』がいる。


 うそみたい……。

 でも、うそじゃない。


「びっくりなんてものじゃないよ。
 真宙くん、あまりにも突然過ぎるよ」


 心臓が悪い人なら発作を起こしていたかもしれないくらいに。


「あはは、びっくり大作戦、成功」


 真宙くんは無邪気な笑顔でそう言った。


「あれ、真宙くん『blue sky』のこと知らないって……」


「あれは、なんとなくそう言っちゃった。
 自分のことを知ってるって言うのが照れくさくて」


「そうだったんだ」


 ……って。

 そういえば。


「真宙くん、大丈夫なの?」


「何が?」


「一般の人に『blue sky』の正体を明かしても」


「本当はNGだよ」


「えぇっ⁉」


「知っているのは家族と関係者だけだったから」


「そんな大切なことを私に話しては、すごくまずかったのでは……っ」


「……希空ちゃんだから話したんだよ」


「……?」


「……好き……だから……」


 え……。


「……俺は……希空ちゃんのことが……好き……」


 真宙……くん……。


「……希空ちゃんは……?」


「……‼」


「俺、希空ちゃんの気持ちが知りたい」


 ……‼


「教えて、希空ちゃんの気持ち」


 真宙くん……。




 私の気持ち……。


 もう気付いている。
 自分の気持ちに。



 黒川さんのことがあったあのとき、自分の気持ちに気付いた。


 だけど。

 真宙くんを目の前に。
 自分の気持ちを伝えることは。
 ものすごく恥ずかしい。


 けれど。
 伝えなければ。

 だから。


「……あの……」


 真宙くんに。


「……私も……」


 気持ちを。


「……真宙くんの……ことが……」


 伝えたい……‼


「……好き……です……」


 真宙くんに想いを打ち明けた瞬間。
 それに合わせるように、やさしく潮風が吹いた。

 その風が私と真宙くんのことをやさしく包み込んだ。


「……希空ちゃん……」


 真宙くん……。


「やったぁ‼」


 ……‼

 まっ……真宙くん……っ。


「希空ちゃーんっ‼」


 真宙くんは思いきり私を抱きしめた。


「まっ……真宙くんっ」


 真宙くんに抱きしめられて心臓がどうにかなってしまいそうなくらいにドキドキしていた。


「ありがとう、希空ちゃん。これからもよろしくね」


「わ……私の方こそ、ありがとう。こちらこそ、これからもよろしくね」


 通じ合えた。
 想いが。
 真宙くんと。

 そのことが。
 とても嬉しくて幸せな気持ちになった。





 一年後――。





 今日は土曜日。


 今日はとても嬉しいことがある。

 メッセージや通話でやりとりしている美空ちゃんと初めて会えることに。


 通話は。
 美空ちゃんに確認をして了承をもらっている。



 美空ちゃんと通話やメッセージのやりとりで交流するようになってから約一年。
 ついに美空ちゃんと会うことが実現できる。

 待っていた。
 美空ちゃんと会えるこの日を。



 そして今、待ち合わせの公園で美空ちゃんと初めて顔を合わせている。

 そこは真宙くんと初めて話をしたあの公園。

 美空ちゃんの顔はわかっている。
 一度だけテレビ電話で話をしたことがあった。



 挨拶を交わした私と美空ちゃんはカフェへ向かった。

 公園から少し歩いたところに可愛らしいカフェが。


 カフェに入った私と美空ちゃんは無理しない程度に少しずつゆっくりと話をしていた。

 話の内容はいろいろ。

 その中でも私にとって嬉しい話が。
 その話は美空ちゃんと通話やメッセージのやりとりをしているときにもしていた話題。

 それは、美空ちゃんは今年の四月から学校に行き始めたということ。

 もう一つは。
 私が美空ちゃんと通話やメッセージのやりとりをするようになってから、挨拶程度だけど真宙くんと会話をすることができるようになっているということ。

 そのことを改めて美空ちゃんの口から聞くことができて、すごく嬉しくなった。





 希望――。


 その言葉が頭の中に浮かんだ。


 ほんの少しずつでも良い方向へ向かうことができていれば、それは大きな希望につながる。


 どうか美空ちゃんも真宙くんも良い方向に向かいますように―――。


 そう思いながら、美空ちゃんとの会話を楽しんでいた。





 ある土曜日。


 私と真宙くんは海に来ている。

 約一年前、真宙くんが……想い……を打ち明けてくれたあの海。


 真宙くんと恋人同士になってから約一年が経つ。


 この一年間、とても幸せで。

 これからも、この幸せが続きますように。



「あっ、そうそう、これ希空に」


 そう思っていると。

 真宙くんは、きれいに包装された物をくれた。


「開けてもいい?」


「もちろん」


 真宙くんは笑顔でそう言ってくれた。


 わくわく。
 そんな気持ちになりながら包装されている物を開けた。


「……‼ これ……」


 真宙くんがくれたのは『blue sky』の新曲のCDだった。


「まだ店頭には並んでいない、できたてだよ。
 最初に希空に手に取ってもらいたくて」


「ありがとう、真宙くん」


 まだ店頭に並んでいない。
 そんな貴重なCDをくれるなんて。

 そう思うと嬉しくなった。


「希空」


 真宙くん……。


 真宙くんは私のことを抱きしめた。


 それは真宙くんのやさしさに包まれているような。
 そんな気持ちになる。



 真宙くん。
 君と一緒にいると。
 元気が出てくる。
 勇気が湧いてくる。

 真宙くんのおかげで私は少しずつだけど前へ向くことができている。

 真宙くん。
 本当にありがとう。


 真宙くんに感謝の気持ちを込めて。







 *end*







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