「うん。でも僕も、あの歌の曲名がわからなくて」
「そうなんだ」
「曲名はわからないけど、僕もあの歌すごく好きだから、あの場所に行ったときに思いっきり歌うんだ」
「……あの場所……?」
「うん。僕が気に入っている秘密の場所」
「……秘密の場所……?」
「うん。そこはとてもきれいな場所なんだ。花も木も草もみんなきれい。僕はその場所がとても好きなんだ」
なぜだろう……。僕がずっと秘密にしてきた場所を花咲さんには自然に話している……。
「すごく素敵な場所ね」
「うん、そうなんだ。あとね、今年は時期が過ぎちゃったけど、とてもきれいな一輪の花が咲くんだ」
「一輪の花……?」
「うん。その場所に存在する花や木や草は全てきれいなんだけど、その一輪の花はまた違った美しさがあるんだ」
「その花の名前は……?」
「わからないんだ。わからないんだけど、僕はその名前のわからない花を年に一度咲くのを楽しみにしているんだ」
「草野くんが楽しみにしてると私も楽しみになる」
「そうだ、来年、花咲さんも一緒にその一輪の花を見に行こう」