「…………」

 叶海は困り顔をしている雪嗣に縋りつくと、震える声で続けた。

「子どもの頃は本当によかった。最近、そんなことばかり考えてる。でも……それは『大人だから』って諦めてるだけ。頭でっかちになって、自分の限界を勝手に決めてるだけだよ。呪いみたいに自分を縛り上げてるのは、『大人』で『常識人』ぶってる私自身なんだ! だから……だからっ!」

 叶海は雪嗣の服を鷲掴みにすると、ありったけの想いを詰め込んで叫んだ。

「私は――雪嗣を想うことを諦めない! 生まれ変わりがなによ。雪嗣をずっとずっと想い続けて、いつか『叶海がいい』って言わせてみせる!」

 ――それが私だ。この年になるまで初恋を温め続けていたくらいなのだ。恋に破れたからと、メソメソしているなんて似合わない。ほんの少しでも可能性があるならば、好きな人の傍に居続けたい……!

「危険なのは百も承知してる。子どもの我が儘だって笑われてもいい。だから……せめて私の心が挫けるまで、一緒に居てもいいでしょう……?」

 すると、小さく苦笑を漏らした雪嗣は、叶海の頭に手を伸ばした。

「そう言って、いつまでも諦めない叶海の姿が想像できるな」

そして自身の胸に叶海を抱き寄せると、囁くように言った。

「本当に強情だな、叶海は」

「……うう。だって。だって……」

「発言は強気な癖に、すぐに泣くところも昔から変わらない。本当に困った奴だ」

 すると、雪嗣はおもむろに空を見上げてひとりごちた。

「いや、困りものなのは、叶海だけじゃないな。――俺という神は……いつも肝心なことに気が付くまで時間が掛かるんだ。すべて手遅れになってからわかる」

 そして――くすりと小さく肩を竦めると、叶海の額に唇を寄せた。