「……そうか」

 すると、苦しげに顔を歪めた蒼空は、勢いよく踵を返した。バイクに跨がり、エンジン音を響かせながら遠ざかっていく。叶海は蒼空の後ろ姿を見送った後、恐る恐る雪嗣に訊ねた。

「力が弱まったって……それは川村のじっちゃんが死んだせい?」

 すると雪嗣は「そうだ」と頷いた。

「神の力は氏子の祈りだ。信じる者が減れば、それだけ力が弱まる。元々、ギリギリのところだったんだ。ここ近年は、いつ負けるかとヒヤヒヤしていた。いつかはこうなると思っていたんだがな」

 雪嗣の言葉に、叶海は覚えがあった。

 叶海が初めて穢れと遭遇したあの初夏の日。

「昼まで」と約束していたのにも拘わらず、穢れの退治が終わっていなかったのだ。

 ――もしかして、あの頃からギリギリのところで戦っていたの……?

 そのことに気が付くと、叶海の顔から血の気が引いていった。

 和則が死んで、龍沖村に残る世帯はあと三つ。残った住民だって、誰も彼もが高齢だ。いつどうなってもおかしくない。

 ――次に穢れが襲ってきたらどうなるのだろう? 今でさえ、こんな大怪我をしているのに、また村人の誰かが死んだら――。

 あまりのことに目眩を覚える。雪嗣が孤独なまま死を迎えるイメージが頭を駆け巡って、叶海はまるで子どもみたいに顔をくしゃりと歪めると、大粒の涙をポロポロ零しながら、まるで祈るように言った。

「ねえ、私……雪嗣の傍に居たい。い、居てもいいよね? 消えちゃうなんて駄目。私が雪嗣を信じ続けるから! だから、絶対に駄目だよ……!」

叶海がそう言うと、突然、雪嗣の身体が淡い光に包まれた。

次の瞬間、龍の姿をとっていた雪嗣は人形へと変身した。そして、地べたに座り込んでいる叶海の頬に手を伸ばすと、穏やかな口調で言った。

「駄目だ」

「どうして……!」

「危険なんだ。わかるだろう?」

 叶海は血で赤く染まった雪嗣の白衣を掴むと、勢いよく首を横に振って反論する。

「危険だって構わない。雪嗣がボロボロになるのを、放って置けないよ!」

「子どもじゃないんだ。聞き分けてくれ」

「――大人も子どもも関係ないじゃない!!」