「私もそう思うのですが……左右が言うにはどうやら違うようなんです」
「左右が? なんて言ってたんですか?」

 神使のくせにあいつは信用ならないところがある。けれどみーこさんに対して嘘をつくようにも思えない。巫女のみーこさんの前では左右はねずみ小僧ではなく神使の狛ねずみとして接しているのかもしれない。
 いや、むしろそうでなければ僕に対して、あんなにずさんな態度なのはいただけない。と言うか僕がただの一般市民で神職者ではないとしても、あの態度はいただけないが。

「左右が言うには、キヨさんは仏壇の中に万年筆が入っていたことに気づいていたんだと言うんです」
「なんでまた……?」
「それがよく私にも分からないんですけど、左右がそう言うのであればそうなんだと思うんです」

 みーこさんがあのねずみ小僧に対してこの絶対的信頼……さすがは神使という肩書きがあるだけのことはある。
 だけど僕にはその信頼はゼロだ。むしろマイナスだ。だからこそあいつの言葉だろうが疑わずにはいられない。そうでなければキヨさんがわざわざこんな占い調べるなどと胡散臭いセリフに乗って、依頼してくるはずもないじゃないか。

「とにかく僕、今日もキヨさんの家に行ってみます。あの新聞の控えってありますか? 直接渡してこようと思うのですが」
「はい、あります。社務所の中なのですぐにとって来ますね」

 みーこさんはそう言って、再び社務所に向かって駆けて行った。
 まぁ、わざわざキヨさんの家にまで行って知らせる必要もない気がするけれど、乗りかかった船というか、最後までやりきるというのが僕のモットーでもあるというか。
 仕事人間だった僕の脳みそはいつでもちゃんと仕事の後始末も怠らない。後輩に頼んだ仕事も、仕事が済んだかどうか、進捗はどうかをきちんと目で見て確認する癖がある。
 もちろん今回のことは仕事ではない。が、否、僕の脳が最後まできちんと終わらせろと言っている。ここで手を離すとむしろ背中の痒いところに手が届かないような気持ち悪さを感じるのだ。

「お待たせしました。こちらを持って行ってください。そのままキヨさんにお渡しいただいて大丈夫ですので」

 みーこさんが手渡してくれたA4サイズの新聞は、今まさに印刷したばかりなのだろう。手に取ると紙が少し暖かい。