僕のすぐそばで鋭い瞳で僕を睨みつけているのは、僕が予想していた通り左右だった。
 やっぱりねずみ小僧じゃないか。
 僕が再び心の中でそう呟くと、左右の瞳の尖がさらに鋭くなる。

「言っとくが、この見た目はあくまで仮初めの姿だ。本来であればお前よりも年上だということを忘れるなよ、小僧」

 僕は左右にスネを蹴られるかもしれないと立ち上がったことを後悔していたが、どうやらそんなことをするつもりはなさどうだ。そのことにホッとしつつ、左右はいつも僕の心の声を読んでいるのであれば、口を開く必要なんてないんじゃないかという考えが浮かんでいた。
 こんなねずみ小僧に僕がわざわざ口を開くまでもない。人のプライバシーを侵害しているのであれば、そちらが僕の言葉を読み取れ。むしろ読み取らせてやる。
 そう考えると僕の方が上にいるような気がしてきて、なんだか気分がいい。
 左右はそんな僕の考えも読み取ったのだろう。左右は肥溜めの糞でも見るかのような目で僕を見た後、くるりと背を向けた。

「あっ、待った。あの新聞はどういう意味なんだ」

 左右をしてやったりと思ったすぐ後、僕は思わず口を開いた。
 そもそも僕がここまで駆け上がってきたのはあの新聞の内容を詳しく聞きたいがためなのだ。

「キヨさんの万年筆の在りか……あれは本当なのか?」

 あやかし新聞に書かれていた答えはこうだった。


・キヨさんが探している万年筆は仏壇の引き出しを探してみるといいでしょう。その中にお探しの万年筆は入っています。


 左右は何も言わず、歩む足も止めず、ただ僕から距離を離していく。

「おい、左右」

 僕が左右の腕を捕まえようとしたら、捕まえる直前にフッと小さな体は姿を消した。人のことは簡単に捕まえたり蹴ったりするくせに、自分はそうやって逃げるとは卑怯なり!
 僕は憤慨しながら手水舎で手を洗い、口をすすぐ。ひんやりとした冷たい水が僕の心を鎮めてくれるような気がした。清めの効果は本当にあるのかもしれないな、と思いながら、ポケットからハンカチを取り出し、濡れた手と口元を拭う。ここに通うようになってからというもの、毎日ハンカチは持ち歩くようにしていた。
 その後きちんと本殿へと出向き神様に挨拶をしてから僕は社務所へと向かった。どんなに憤っていても、早くみーこさんに会って新聞の内容について話がしたいと気持ちがせっていても、僕はきちんと挨拶を怠らない。それが僕のポリシーだ。