「みーこの言う通りだ。俺はこの神社が出来た時からここにいる」
「みーこ?」

 僕が復唱すると、麗しの巫女の可憐な細腕がすっと天に伸びた。

「私です。(ひいらぎ)満己(みこ)と言います」
「ああ、だからみーこ……」

 なんてあだ名はどうでもいい。巫女の神職に就きながら名前もみこさんとは。
 そんな風に偶然の出来事に思わず唸り声をあげそうになっていたが、今はそんなことに気を取られている場合ではない。
 今気にするべきなのは、この少年がこの神社の神使だと言う言い分だ。あからさまに小学生な見た目をしているが、それはこの少年が神使だから。
 だから僕よりも年上を気取り、この神社が出来た時からここにいる……などと言う意見が出てくるのだろう。

 けれどそんなものはでっち上げた設定に他ならなければ、なんの捻りもない。何か物や神様を擬人化したこの感じは、最近のライト文芸にありそうな設定ではないか。

 ただひとつ気になるのは、麗しの巫女であるみーこさんまでもが僕を騙そうとしていると言うことだ。純真無垢そうな彼女が、そんなつまらない嘘をつくのだろうか……?
 嘘とまではいかなくとも、これはきっと、この小生意気な小学生に頼まれでもした”ごっこ遊び”と言うものなのかもしれない。
 もしくはこの神社の名物にでもするつもりで、練った”設定”か。

 どちらにせよ、僕はそんな遊びに乗ってあげるつもりなはないのだ。
 ここで僕が大人の威厳を見せないと、この少年は一生僕のことを見下すだろう。
 もう二度と会わない間柄かもしれないが、それでもこの少年の仕打ちに僕は、怒り心頭を発していた。

「ふん、信じる信じないはお前次第だが、俺はお前に頭を下げるつもりも、へり下るつもりもないぞ」

 そう言って少年は僕の前で腕を組みながら、僕をにらみ倒している。なんとも憎たらしい表情だ。

「人の顔のことを言えた義理か? お前の顔もなかなかだぞ」
「黙って聞いてれば、この……!」

 僕が少年を捕まえようと手を伸ばしたその時だ。僕はその手を空中でピタリと止めた。
 少年まであともう少しという距離で、あと拳二つ分手を伸ばせば届くという距離で、僕はその行動を止めたのだ。

「……って、あれ?」

 僕、黙って聞いていればって言ったよな……?
 これは単に表現として言ったわけではなく、実際僕の口は、真一文字に閉ざしていたはずだ。
 それなのにこの少年はそれを知ってるかのように話していた……?

 また僕は気づかない間に口を開いていたのだろうか? 今日はやけに多い。ここに着いてから何度かそれをしているから、気をつけていたはずなのに?