一旦落ち着いて、話を整理してみよう。

「あの、僕にはこの少年が見えていますし、あなたにも見えているんですよね?」
「はい」
「なぜ僕たちには見えて、他の人には見えないのでしょうか?」

 僕は隣で目を細めて睨みをきかせているこの小学生の少年に視線を投げる。いくら人の前だからと言って、あまりバカにされるのも癪なので、僕も同じくこの少年を目を細めて見つめ返した。それは僕なりの睨みの表情だった。

「私は昔から見えるのでわかるのですが、もしかして霊感が強いのでしょうか?」
「霊感?」

 新たなワードに、僕は再び麗しの巫女へと視線を戻すことになる。すると麗しの巫女は神妙な面持ちで、一度だけ首を縦に振った。

「僕は今までそんなものを持ったことはないですが……この子が幽霊だというのですか?」

 そんなまさか。僕は幽霊なんて信じない。その理由は、見えないからだ。物理的に見えない。だから信じない。シンプルだ。
 だけどもし見えてしまったら、信じなければならないじゃないか。だってそれは見えているのだから、存在自体が事実に変わってしまう。
 だけど……。

「ご冗談を。この子は袴を着ているではないですか。明らかにこの神社の神職者でしょう? この神社の跡取り息子といったところでしょうか」

 この幼さで袴を着て神社で奉仕をしているのだ。間違いなく、この神社の跡取りだ。
 幽霊がわざわざ袴を着るのか? ありえない。僕は幽霊を見たことがないけれど、それはどう考えてもおかしな話だと僕は思う。
 幽霊を見たことがない人間がそんな風に言うのは、少し的外れな考えかもしれないが、一般的な考えから基づいても、やっぱりおかしいと思うのだ。

「いいえ、跡取りは私です。ここは私の家です。ですが、彼は違います。彼はこの神社の神使なのですから」
「神使?」

 僕は再び神社の鳥居の両サイドに置かれているねずみの置物を確認した。そして僕はそのままあの狛ねずみを指差した後、その指先を、行儀悪くも少年へと向けた。

「はい。この子はこの神社の神使なのです」
「あはははっ」

 思わずお腹を抱えて笑ってしまった。
 麗しの巫女があまりにも真剣な表情で言うものだから、僕はまんまと騙された。見た目は可憐だが、やはり子供は子供。大学生の発想だな、なんて僕は思って抱えていたお腹がよじれ始めた。
 そんな時だった。隣で睨みをきかせていたこの少年は、僕がこの少年に向けていた人差し指をがぶりと噛んだ。