華奈子は、晴高を穏やかな目で見上げると静かな微笑みを(たた)える。
『晴高君』
 両手を伸ばすと、彼女は晴高の頬に触れた。
『やっと会えた』
 そう呟いて背伸びするように顔を近づけると、華奈子は静かに抱き着いた。
「俺も……、ずっと。ずっと、会いたかった」
 呻くように応える晴高に、華奈子は愛しげな瞳をそそぐ。
『うん。ずっと会いに来てくれてるの、いつも知ってたよ。……もっといっぱい一緒にいたかったけど。私、もう逝かなくちゃ』
 彼女の身体もまた、キラキラと光を放ち始めていた。成仏しかけているのだ。華奈子は晴高から離れると、千夏と元気に向けて頭を下げる。
『ありがとう。あなたたちのおかげで、颯太君のことを助けることができました。晴高くんのことも。本当にありがとう……』
 そして今度は、颯太ににっこりと笑いかける。
『颯太君、お姉ちゃん先に行っているね。颯太くんはそっちでいっぱい遊んでから来ればいいからね』
 そして、華奈子は最後にもう一度晴高に向き合うと彼を指さした。
『晴高君!』
 はつらつとした声で告げる。
『君に、幸あれ!』
 その言葉を聞いた晴高の顔が、ハッとなった。すぐに、くしゃりと涙に歪む。
「それ、俺が卒業式の日にクラスの皆に言った言葉だろ」
 華奈子はエヘヘと笑った。そして、ふわりと穏やかな笑顔になると、そのままスウッと空気に溶け込むように消えてしまった。
『大好きだよ』
 そう、ぽつりと言葉を残して。
 華奈子の消えた場所を見つめながら、晴高も応える。
「ああ。俺も、大好きだ」
 その声が華奈子に届いたのかどうかはわからない。でも、きっと届いたと千夏は信じている。人が逝くのは一瞬だ。でも、その別れはきっと一生忘れられないものになるに違いない。
 晴高はしばらく華奈子がいまいた場所を見つめていたが、腕で顔を拭った後こちらを向いた彼は、もういつものクールな彼に戻っていた。
 さて、あとは颯太のことだ。
「颯太くん。このあと、どうする? 行きたいところがあるなら連れて行ってあげるけど」
 千夏に聞かれて颯太は少し考えていたけれど、パッと顔をあげる。
『ボク、おうち帰りたい! パパとママと、それと妹のサヤカにも会うんだ!』