二射目も一射目と遜色ない綺麗な射形で的の中心を射ぬいた。これだけできる先輩がいるんだから、藤宮先生が全国を目指せると言っていたのも十分理解できた。
「さあ、次は真弓君の番ね」
「はい。よろしくお願いします」
 技術力がある先輩に見てもらうことを誇りに思って、僕は的前に立った。翔兄ちゃんや真矢先生以来、久しぶりに自分の形を評価してもらえるのかもしれないと思うと、わくわくが止まらなかった。
 今すぐ引きたい。自分の立ち位置がどこなのか知りたい。
 打起しに入った僕は大三をとり、引分けに入る。ゆっくりと呼吸のリズムで弓を引いて、矢を口割りの高さまで下げる。ここからじりじりと伸びなければいけない。
 しかし会に入った瞬間、僕の病気が発症した。放たれた矢は無情にも安土に刺さる。わかっていたことだけど、自分の射に憤りを覚えずにはいられない。
「駄目でした」
 先輩の方に視線を向けた僕は、直ぐに異変に気づいた。先輩の頬に一滴の光るものが伝っている。
「せ、先輩?」
 どうしていいのかわからず困惑していると、我に返った先輩は急いで涙を拭った。
「ご、ごめんなさい。何でだろう。懐かしくなっちゃった」
「懐かしい……ですか?」
「うん」
 そっと呟いた先輩は、息を吐くと僕の目を見て告げた。
「二年前の全国大会で優勝した時の射と変わっていなかったから」
 先輩の発言に僕は息を飲んだ。
 二年前。中学二年生の頃。そういえば、さっきも先輩は「もう一度見たかったの」と言っていた。まるで、過去に僕の射を見たことがあるかのように。
「僕のことを知ってたんですか?」
「うん。知ってた。だって、私も二年前に全国大会に出場していたから」
 道場内に風が吹き込み、先輩の長髪がなびく。
「真弓君の射は、人を引き付ける力があると思う。中学生の頃からそうだったけど、特によかったのは会だった」
 会。僕が射法八節で一番大好きな節。会の時に生まれる静寂。見た目ではわからないけど、矢を離す瞬間までの緊張感。今までの動作を、後にくる離れに繋げるための大切な節。先輩は僕の会を評価してくれた。
「でも、今は当時のような会は影を潜めている。病気にかかってしまったから」
 早気。弓道の三大病の一つと言われている重い病気。残り二つは「もたれ」「(ゆる)み」と言われているけど、諸説あるらしい。三大病の中で一番重いとされているのが早気と言われている。