弓道は的中数によって勝敗が決まる。その試合形式のせいもあるのかもしれないけど、高校生のほとんどの人は的中を求めて中りにはしってしまう。中りにはしると、今度は射形を崩してしまい、徐々に中りが遠のいていく。的中にばかり気をとられていると変な癖がつき、今の僕みたいに早気になったり、中らなくなったりと悪いことばかり起こってしまう。
 こうして多くの弓道部員は、射形と的中数のジレンマに陥っている。高瀬も、古林も、そして僕も。ようやく練習環境が整ってきた今だからこそ、両方のバランスを意識して取り組んでいく必要がある。
 僕達の練習は、道場が使える時間いっぱいまで続いた。

「早気の克服方法ですか?」
「うん。とりあえず、この一ヶ月で大前さんの射形をある程度把握できた。今日からは、僕が実際に試した克服方法をやってもらおうかなと思って」
 僕は大前の目の前に克服アイテムを出す。
「電子メトロノームですか?」
「そう。このメトロノームの音を聞いて、弓を引くリズムを身体にしみこませるんだよ」
 道場で練習するようになって一ヶ月。高瀬も古林も徐々に射形が固まり始め、自分の課題が浮き彫りになっていた。各々がその課題に向け、練習に精を出している。僕も大前の課題を克服するために、対策をあれこれと試していた。
「電子音のリズムは、一コマ一秒に設定する。射法八節のそれぞれの節を四秒の間で引くことを意識するんだよ。特に会の時は、四秒後になる音で離れに移ることを意識してね」
「なるほど。音があるので、意識しやすいわけですね」
「うん。とりあえずやってみようか」
 はい、と元気よく頷いた大前はメトロノームのスイッチを入れ、弓を引きはじめる。
 最初に大前を見た時から、綺麗な射形をしていると思っていた。こうしてメトロノームのリズム通り引いても、射形は綺麗に保たれている。
 大三をとった大前はそのまま引分けに入り、四秒経った音と同時に口割りまで矢を下げる。そこから会に入る。
 一秒、二秒。次の瞬間、大前は矢を放してしまった。
「二秒二五。少し保てるようになったんじゃないかな」
 手に持っていたストップウォッチで計った時間を僕は読み上げた。一ヶ月前に初めて見たときは、会に入った瞬間に矢を放していた。その大前が、今は二秒も会を保つことができている。
「嘘……音やテンポを意識していただけなのに……」