ブログやSNSなどのネット上で、不祥事をきっかけに爆発的に注目を集める事態または状況を炎上、もしくは祭りと呼ぶ。
 今回の被害者たちの境遇も、この炎上が該当するだろう。
「それはまだ説明してない、Shabetterの機能が関係してるんだよ」
「機能? まだなんかあるのか」
「むしろここからが本題だよ。さっきまではShabetterの前説みたいなものだし」
 ここまで説明された以上に、Shabetterにはまだ機能があるらしい。
 カズラはそう答えると、TLに表示されている投稿にカーソルを合わせてクリックする。
「こうやって投稿をクリックすると、詳細が表示されるよね?」
「ああ、下の方になんか矢印みたいなマークがあるな」
「このマークを押すと〝リツイート〟、通称RTができるんだよ」
「RT、って言うのは?」
「簡単に言えば、RTした投稿を自分のフォロワーに見てもらうことかな」
 試しにカズラは、詳細を表示した投稿のRTマークをクリックする。
 すると『この投稿をリツイートしますか?』と確認のメッセージが表示され、カズラは『リツイートする』のボタンを選択する。
 RTが完了するとTLの最上部に、今さっきRTした投稿が表示された。
 つまり他人過去の投稿を再投稿し、自分のフォロワーに見てもらうのがこの機能らしい。
「Shabetterでは基本的に、自分がフォローしてるアカウントの投稿しかTLに表示されない。でも他人の投稿が面白かったりした時は、自分のフォロワーにも見せて面白さを共有したいよね? それができるんだよ。そう、Shabetterならね」
「携帯のCMみたいに言うな。ええっと……つまりだな、自分以外の人間に知ってもらいたい投稿をRTするんだよな?」
「まあ、ポジティブな意味だけじゃなくて、吊し上げてプギャーする目的でも使われるよ」
「……つまり、犯罪行為を拡散する意味では最適だな」
 説明を受け終わると、どうしてカズラがShabetterは炎上しやすいSNSと言っていたのかよく分かる。
 例えばカズラが投稿をRTすれば、その投稿は二万人のフォロワーの前に表示される。
 この時点でかなりの数だが、カズラがRTした投稿をフォロワーが更にRTしたら?
 フォロワーのフォロワー、そのまたフォロワーと言った具合にRTの連鎖は止まらない。
 それこそネズミ講の要領で、爆発的に情報が拡散してしまうだろう。
「RTする側は面白がってる人間、犯罪をこらしめてやりたいと思う人間、色んな人がいると思うけど、結局は他人事だからね。ボタン一つの決断なら大した考えなしにRTしちゃうよ」
「特に正義感、って言う大義名分はな……自分では正しいことをしてるように思えるなら、喜んでRTするヤツも多そうだな」
 カズラが言うように動機は人それぞれだが、当事者以外にとって所詮は他人事だ。
 RTしようがしまいが、自分が損害を被るわけではない。
 ならばボタン一つの気軽な選択は、特に悩むことなくRTしてしまうのではないか。
 相手の顔が見えないネットでは、むしろそれが普通なのかもしれないが。
 もしかしたら俺たちはその先にいる相手がどうなるのかも知らないまま、誰かへと石を投げているのかもしれない。匿名性と言う名の仮面は倫理観を蝕み、どこまでも人を残酷にしてしまう。そう思ってしまうと、背筋に悪寒のような末恐ろしさを感じたのだった。