「あ、次俺だ」
陽太が言って、テーブルの上に手を伸ばした。こっちまで届くんじゃないかと、一瞬ドキリとしたけれどそんなことはなく、ただマイクを取っただけだった。
……そりゃそうだよね。何考えてるんだろう、私。
ホッとする反面、なぜか少しがっかりしていた。
中学まで、陽太と同じ部屋にいたことなんて数えきれないくらいあったのに。もうそれが当たり前じゃなくなってしまったんだと、痛感する。
そんなの、ずっと前から知っていたのに。
そのとき、聞き覚えのある音楽が流れ出した。はじめの音が鳴った瞬間から、胸が締め付けられ苦しくなった。
「あ、これ好き。意味不明だけどなんかいいよなー」
守屋くんが笑いながら言った。
私も好き、と言いたいけれど、声にならずに小さなため息に変わる。
よくマンションの屋上で一緒に聴いていた歌だ。陽太がハマって、私も好きになった。激しいギターの音、意味不明な歌詞。屋根の下の壁に背中を並べて、イヤホンを片方ずつ耳にさして、何度も飽きることなく聴いた。片方の耳ばかりに爆音が流れるから、離したときは耳の感覚がおかしくなっていた。それがおかしくて、2人で笑った。
あの日、夕焼け空の下。屋上には私たちしかいなかった。音楽を聴きながら、はっきりと自覚した。

ーー陽太が好き。

それまでぼんやりとしか意識していなかった気持ちに、突然色がついたみたいだった。
あのとき、そう伝えていればよかったんだろうか。
そうしたら、こんなに苦しくならずにすんだのだろうか。
だけど、

『もう話したくない』

そう言ったのは私だ。
本心なんかじゃなかった。もっと、違う言葉を言いたかった。
今さらそんなことを言っても、もう遅いけれど。