「ねえ、そういえば光里って……」
美咲が何か言いかけたとき、
「あ、美咲と葉山さん、ちょっといい?」
呼ばれて、顔をあげる。岩田さんと荒川さん。いつも一緒にいる仲良しの2人組だ。
「どしたの?」
美里が何気なく尋ねる。
「あのね、あさっての日曜日、カラオケ行かない?」
「カラオケ?なんで急に」
「えーっと……」
2人は意味深に顔を見合わせて、岩田さんのほうがにっこり笑って言った。
「割引きのチケットもらったから、どうかなあって」
断ろうと思った。この2人とはほとんど話したこともないし、カラオケは苦手だ。
でもなんて言って断ろうと考えていると、美咲が先に口を開いた。
「うん、行く」
え、と思わず上ずった声が出た。
「光里はどうする?」
「え?えっと……」
3人が私を見ている。
どうしよう。用事なんてないし、でも……
「……私も、行こうかな」
「じゃ、決まりね!」
2人は満足そうに言って、
「あ、葉山さん、ライン交換しようよ」
と言った。
「う、うん」
私は言われるがままに携帯を差し出した。
登録しているのは、家族と美咲だけ。ほかの人のは、中学の卒業式のときに全部消してしまった。3人しかいないリストに、新しく名前が追加された。
「じゃ、日曜日よろしくねー」
2人が去っていた後、まだ半分残っているお弁当に目を落としながら、私はぽつりとつぶやいた。
「……なんで誘ったんだろう」
「え?」
美咲がキョトンとして私を見る。
「だって、美咲はわかるけど、私なんてほとんど話したこともないのに」
「仲良くなりたかったからじゃない?」
美咲が当たり前のように言う。
「まだ5月だし、よく知らない子もいるし、たまにはいつもと違う子と話してみるのもいい機会だと思うよ」
私は友達は美咲だけでいいのに、と思う。でも、美咲はそうじゃないみたい、部活の友達もいるし、クラスメイトとも普通に話す。
いつも美咲ばかりにべったりなのも、迷惑なのかもしれない。
「ちょっと強引なとこあるけど、いい子だよ、あの子たち」
そう言われても、苦笑いを浮かべることしかできなかった。