子どもとこんな風にふたりきりになることは初めてだ。

ここに来た理由も、夏哉との関係も、そう都合よくコウトくんから訊ねてはくれない。気の利いた話題が浮かぶわけでもなく、手紙を渡すタイミングに悩んでいると、コウトくんが私の顔をぐっと覗きこむ。


「おねえちゃん、なつくんのおともだちなの?」

「お友だちっていうか……うん、そうだね」


幼馴染み、腐れ縁、そんな遠回りな言葉が先に浮かんでしまうけれど、夏哉との関係の名前には確かに友だちも含まれる。

コウトくんから話しかけてくれて助かったのも束の間、子どもに耐性のないわたしは一瞬会話が途切れただけで気まずさに身じろいでしまう。

こちらの心中など知りもしないコウトくんが嬉しそうに話し出した。


「なつくんね、ぼくのヒーローなんだよ!」

「えっと、ヒーロー?」


困ったときはとりあえず反芻をすれば何とかなるんじゃないかと、苦し紛れに聞き返す。


「あのね、ぼくね、あしがみんなとちがうんだ」


私の焦りは気にもしていない様子で、コウトくんのペースが出来上がる。ついて行こうと必死になるのも何だかおかしな気がして、コウトくんのペースにのまれてしまおうと深く息を吐いた。


「うまれつきでね、ぼくあんまりおともだちいなくて」

「うん、それで?」

「それでね、ようちえんいきたくなくなってね」

「うん……?」

「でも、やっぱりいきたくてね」


両極端なその心は、わたしの歳になっても常々感じるそれと同一のものなのだろうか。気持ちはわかるけれど、話のテンポが掴みにくく、相槌のタイミングもズレていく。


「おかあさんとようちえんのなかをのぞいてたらね、こえかけられたの」

「それってもしかして」

「なつくん」


どうしてこんな所に夏哉がいたのだろう。コウトくんに聞いてもわからないことだと思って、話の続きを促す。


「あし、へんだからみんなあそんでくれないっていったらね、ちがうっておこられた」

「怒られたの?」

「うん。それで、なつやくんとかけっこして、まけちゃったんだけど」

「大人気ないな、あいつ」


勝たせてあげるとか、しないのか。

何事にも全力で、手加減なんて相手に失礼という考えの夏哉なら、たとえ園児でも遠慮はしなさそうだ。


「でも、なつやくんがまたしょうぶしようっていってくれたの」

「じゃあ何度も会ってるんだ」

「まいにちあってたんだよ!」

「……毎日?」


わざわざ学校帰りに隣町まで、コウトくんに会うためだけに、毎日通っていたということだろうか。それなら、先生が夏哉を覚えていることにも合点がいく。

夏哉の動向をいちいち確認してはいないし、確かに帰り道で姿を見かけないことには気付いていたけれど、その動向を探ろうだとか、知りたいとは思わなかった。