「ユリには会えたのか」
「昨日、やっと」
あのメモはアキラも見ていたから、三通目の相手の名前と、ユリが近所だということは知っている。
「それで、次に進めるってわけだな」
「そう、たぶん」
「多分? なんだそれ」
ユリ宛の手紙を開いてしまったこと、土曜日に駅に来るように言われたことを話した。
「勝手に読むなよ」
「そりゃあ……悪いってわかってたけど、ただ渡すだけだとユリは話を聞いてくれないし、なにも言ってくれないから」
「前から思ってたけど、ユリってやつとも幼馴染みなんだろ? 嫌ってるのか嫌われてるのか知らないけど、なんでそんなに仲悪いんだよ」
理由もわからずに嫌われているのなら、素直にそう言えば良かった。
ユリがわたしを嫌っている理由。
それは何も知らない他人に一から説明するのは憚られてしまうような、暗い感情のもとに芽吹いている。
『あんた、おかしいよ』
わたしが中学二年生で、ユリが一年生だったころ。
冬前の寒い日の夕方、そう言われたことがある。
空っぽのゴミ収集所の片隅に投げ捨てた携帯電話は、バキバキに砕けて、割れていた。
あのころのことは、まだ鮮明に思い出せる。
消せない記憶、目を瞑りたくなるような思い出。
昨日高校を卒業して、ようやくあのころのことを知っている人は片手に数えるほどになった。
これからは誰にも伝えずに、ゆっくり忘れていくだけの記憶になるはずだった。
それすら呼び覚ますようなことをして、夏哉の身勝手さに憤りたくても、もう責めるべきその人はいない。
「ユリは夏哉を好きだったから、わたしのことはずっと、あんまり良く思ってなかったんじゃないかな」
「それだけでそんなに嫌うことか?」
「性格が真反対だから、もともとそんなに仲良くなかったんだよ」
ユリは結構、気が強いタイプだ。
気に食わないことがあれば顔に出るし、はっきり言葉にして伝える。
わたしは言いたいことをじっくりと考えて、必要がないと感じたら飲み込んでしまうから。
好き嫌いというよりも、そりが合わないと言うべきかもしれない。
「わたしが夏哉を好きだったことも、ユリは気付いてたし」
「しれっとカミングアウトするなよ……夏哉と付き合ってたのか?」
「いや? 付き合ってないよ。ただの幼馴染み」
「なんで」
心なしか怒気を含むような語調で問い質されて、面倒くさいなって気持ちが表情に出てしまった。
男の子に凄まれるって、結構怖いんだよ。
睨み返すこともできずに、わざと眉を下げて怯えるような顔を作って見せると、アキラはため息をこぼしたけれど、先の発言を引き下げることはしない。