はじめて会ったとき、アキラがバレー部かバスケ部かもわからず、名前と学年しか知らなかったのに、今では話があるからと押しかけるような始末。

春輝くんが話の内容を気にするのも当然のことだ。

なにも言えないのが心苦しいというよりは、アキラさえ良いのなら、それからすべてが終わったあとになら、話してもいいと思える。


「春輝は? 先帰った?」


駆け足で戻ってきたアキラは、手に持っていたスポーツタオルを雑にカバンに押し込む。

ファスナーに引っかかるのも構わずに無理やり閉じ切ったあと、顔を上げて眉を寄せる。


「なあ、聞いてる?」

「ごめん、聞いてなかった。先に帰るって」

「聞いてんじゃん」


パンパンに膨れたカバンを高く放り投げてキャッチ。

その行動に意味はないのだろうけれど、そういえば似たようなことを夏哉もしていた記憶がある。

夏哉は取りきれずに腕のあいだをすり抜けて、アスファルトの上にスポーツドリンクをぶちまけていた。


忘れていたことがふとした拍子に蘇る。

アキラの姿に夏哉が重なることはないけれど、言動の端々に面影のような、きっかけのようなものが見えてしまう。

嬉しいけれど、切なくて、目を瞑りたくなる。


「このあと時間ある?」

「あるけど、わたしアキラに話があって……」

「わかってるよ。冬華から来るって言い出したの初めてなんだから、なにかあったってことくらい」


思えば、何度かここへ足を運んだのはアキラが誘ってくれたからだ。

わたしから、今日は来るのかだとか、行ってもいいかと聞いたのははじめてだった。

話せる進捗がなくて意図的に手紙の話題を避けていたこともあって、いきなりわたしが訪ねてきたとなれば、容易に想像がついたのだろう。


駅の表側に行くには遠回りをして線路を渡るほかに跨線橋を通ることもできるのだけれど、今は使えなくなっている。

それなのに階段に向かって歩いていくから、不思議に思いながらもアキラについていく。

ロープが張ってあって入口は封鎖されていたけれど、アキラは裏手に回って、積まれたコンクリートブロックの上に荷物を置いた。


階段裏にはいくつもの落書きがされていて、定番の相合傘やおまじないのような文面が並んでいる。


「汚ねえから座るなよ」


腐った木製のベンチのことを言っているのだろう。

背をもたれる場所もなく、ここで立ち話をすることになりそうだ。