学校では夏哉の机に毎日山のような量のお菓子や飲み物が置かれていた。

家の近所の騒がしさは落ち着きつつあるのに、教室では夏哉の名前がしょっちゅう飛び交うから、彼の影がいつまでもそこにある。

夢に見るのは仕方がないけれど、授業中に夏哉の机が視界に入るとどうしても集中を欠いてしまう。

頭の中の夏哉を何度霧散させても、どこにいても何をしていても、輪郭が佇み続けていた。


卒業試験を終えて、仮卒期間に入ろうかといったとき、わたし宛てに夏哉が残したあるものが手元にやってきた。飛んで吹いて来たわけではなく、試験最終日の帰り際、学校の名前が印字された大判の封筒を見知らぬ先生に渡された。


必ず帰ってから開けるようにと念を押されたそれを帰宅後すぐに開封する。

机の上に広がるのは七通の手紙。

どれも白い無地の封筒で、一通はわたしの名前が書かれているけれど、他の六通は宛名がなく裏面の右端に小さく番号が振られていた。


敬称はなく【橘冬華】と名前が書かれた手紙を手に取り、窓に向けて高く掲げる。触れた厚みと透けて見える便箋に、端を掴む手が震えていた。


便箋を開いて現れた夏哉の字に、拍動の音が大きくなり、こめかみの血管がずくずくと疼く。胸に手を添えて撫で下ろしてみても、一向に落ち着かない。座っているだけなのに呼吸が荒くなるのがわかって、意識的に深く息をつく。


これは、遺書、なのだろうか。

指先が冷たく痺れ、体が強ばる。顔ごと目を手元から背けるけれど、何度か深呼吸をして肩の力を抜いた。

見慣れた夏哉の字を数行追いかければ、あとは夢中になって全文を読み上げた。