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ずっと、変わらずに応援はしていた。
どんな場所にいても夏哉は夏哉だったから。
「でも、あの日……」
夏哉がキャプテンの指名を断ったことは聞いていたけれど、新キャプテンが発表される日、もしかしたら、と覗いた体育館で、いちばん後ろに夏哉の背中を見たとき。
交わした約束は、もうそこにはなかった。
小学生の頃の『プロになりなよ』という言葉の重みを知ったのは、中学生の頃だったけれど、最後の全中の結果を見れば、望みがあったこともわかる。
スポーツ推薦を蹴ってわたしと同じ高校を選んだ夏哉に、その理由を問えば良かった。
わたしと一緒の高校がいいというのなら、それで良かったのに。
あの約束に応えてくれようとする夏哉だけを見ていて、夏哉が求めているものには目もくれずにいた。
「夏哉はわたしといたかったのかな」
「そんなの、知らねえよ」
「……うん、そうだよね。ごめん」
もしかしたら、アキラにそのことを話しているかもしれないと思ったのだけれど、僅かな希望も打ち砕かれる。
アキラの声は、心なしか怒気を含んでいるように聞こえた。
アキラへの手紙に書いてあった『バスケが好きで、嫌いなところ』という一文が頭から離れない。
その嫌いの部分はわたしのせいなんじゃないかって。
強制力はないと思っていた。
たかが幼馴染みの、小学生の頃の言葉になんて。
「俺は別にスタメンでもないし、バスケは全然上手くない。バスケが呼んでるなんて強がり、今は小っ恥ずかしいよ。辞めようか迷ってたって、辞めるなって言うやつはいないんだ」
アキラの膝の上で丸まった手の甲に血管が浮かぶ。
強く握り締められた手にこもる想いに耳を傾ける。
「だけど誰も辞めろとは言わない。引き止めないのに、追い出してもくれない」
アキラの部活内での立場がわからない。
あれだけ部員数がいれば、試合に出られることが約束されることもないだろう。
学生の部活なんて本人の意思次第だ。辞めるも辞めないも、他人に左右されずに選べる。
それがアキラにとっては辛いことだとわかっているけれど、人に委ねられる判断ではないと思う。
まちがえない言葉を選ぶのは難しくて言葉に詰まると、アキラは空き缶をぐしゃりと握り潰してすうっと息を吸い込む。
「あーもう、決めた!」
「もっとよく考えた方がいいんじゃ……」
「十分考えた。もういい。辞める」
もういい、と諦めの枕詞の代名詞を吐いて『辞める』と言い切ったアキラは清々しい顔をしていた。
うんと伸びをして、胸ポケットから四つ折りの紙を取り出す。
「それって」
「退部届け。もうほとんど幽霊部員みたいなものだし、今更出さなくてもいいだろって思ってたけど、けじめはつける」
開かれた紙をよく見ると、もう署名も捺印も済まされていた。
退部理由の欄が空白だけれど、そこを埋めるか埋めないかも、アキラ次第なのだろう。