夏哉は運動神経が飛び抜けて良かった。

勉強は何度反復してもすっぽりと頭から抜けてしまうくせに、体を使って覚えたことは一度で吸収して、見よう見まねでも器用にやってみせた。

サッカーだけはなぜか相性が悪くて、一日の体験で終わっていたけれど、ほかのスポーツは年単位で続くものもあった。たとえばスイミング、テニス、野球。

夏哉が興味を示したものに応えてくれる家庭環境が羨ましかったこともある。


小学四年生のとき、地元の大きな公園でとあるイベントが行われた。

スピーカーから途切れ途切れに聞こえる声にいてもたってもいられなくなって、ふたりで走って向かうと、県のバスケットボールチームのメンバーが数人でインタビューに答えていた。

わたしはその話に興味がなくて欠伸を零していたけれど、ちょうどその時期バスケに夢中になっていた夏哉はキラキラと目を輝かせていた。


インタビューが終わると、仮設のバスケットゴールを使った催しのコーナーが始まり、選手をはじめ、観客たちが順にボールを放り始める。

その中には夏哉と同じ練習チームの男の子たちもいたけれど、誰一人としてシュートを決めることができずにいた。

最後尾に並んだ夏哉も結果は同じ。

それもそのはず。

ミニバスのゴールとは高さがちがうし、いきなりシュートを決められるわけがなかった。

夏哉ならもしかしたら、と思っていたけれど、チャンスは一回きりで、外れたボールがてんてんと転がる。


選手たちがお手本と称してシュートを決めていく中、わたしの隣に戻った夏哉は悔しそうな声をもらした。


『くっそ……惜しかったのに』

『見てたよ。夏哉、へったくそだね』

『はあ?⠀そんなこというなら冬華もやってみろよ』

『やだよ。私は応援専門!』


へたくそなんて、よく言えたものだ。

リングにボールが掠めただけでも夏哉はすごい。

拍手で迎えたかったけれど、悔しそうな夏哉の顔を見たら、そうやって悪態をつくしかなかった。


お互いにムキになってしまって、わたしはへたくそへたくそと連呼し、夏哉はぐんっとわたしの背中を押した。

人の列から一歩前に出ると、選手のひとりにボールを手渡された。

もう、どうにでもなれと思って投げたボールはゴールに届かないどころか明後日の方向に飛んでいって、見兼ねた選手がわたしを抱えて高く持ち上げ、リングに近付けてくれた。

ゲラゲラと笑う夏哉をキッと睨みつけて、抱き上げられたまま放ったシュートは見事に決まった。