翌日、二通目の手紙を届けるため、また電車に乗っていた。今度は最寄り駅から、昨日とは逆の方面に一駅。

交通費は自分の財布から捻出するしかないし、宛先が近場なうちは自転車での移動を主要にしようと昨夜のうちに意気込んでいたのに、外へ出た瞬間の凍てつくような寒さにあっさりと折れてしまった。


鉄道橋の上を通り過ぎるとき、昨日の河川とは打って変わって葦に覆われ水量の少ない細い川が車窓の向こうに流れて、すぐに視界から消えた。


目に見えるものは、いつも一瞬だ。

変わらないものなど無いのだと、知ってしまう。

それでも、見ていたい景色と、何度だって思い出したい情景があるから、瞳に映る瞬間を残したがる。

たまに、普段と遜色ない、いつでも見られるような景色にさえカメラのシャッターを切りたくなるのは、きっとその一瞬を捉えて離したくないと願うからだ。

物として残すものはいつかなくなるし、記憶で残したものはいつか薄れてしまうのに、今だけは、そしていつかの未来にも残るようにと祈りを込めて。


そういえば、と携帯の写真フォルダを開こうとしたとき、車内にアナウンスが流れた。

携帯はボアジャケットのポケットに仕舞い、停車したその駅に降り立つ。柱や駅舎の壁に錆の目立つ、寂しく荒んだ雰囲気の無人駅。ここから先は、主要駅までしばらく無人駅が続く。


南中への道のりは、調べなくてもわかる。

駅の裏手に、どんと構えた大きな校舎がそれだ。


今日一日で『アキラ』を探し当て、手紙を渡すのが理想だけれど、実際そう上手く事が運ぶとは思えない。

容姿を知らない『アキラ』を探すには、人に尋ねる他ない。昨日ほどの緊張はなくとも、母校でない中学校で知らない人に声をかけるのは躊躇してしまう。なるべく話しかけやすそうな人を、と見定めているうちに、何人も目の前を通り過ぎていく。


フェンス沿いに正門の脇に立ったとき、ふと校舎を見上げて、思い出したことがある。

わたしはこの中学校を知っている。中学三年生のときに、夏哉のバスケ部の試合で来たことがある。

他校には絶対に行きたくないと断固拒否したのに、朝から家に来て半ば引き摺るように連れて来られた。

最寄り駅の前で言い合い、電車内でもどうにか逃げようと試み、降車したあとは動こうとしないわたしを夏哉が一度担ぎ上げたものだから、全力で抵抗して敵わなかった上で仕方なく、試合を見届けた。