興味のあるものを聞き出して、たとえば学校のパンフレットだとか、そういったものではなく、興味に触れられる形のものを榊くんに渡した。

だけど、榊くんに興味のあるものを聞くと、全て『興味の“あった”もの』として答えるから、手始めに僕の趣味であるボトルシップをさせてみた。

器用ではないけど、コツを掴むのがはやく、あっという間に完成させたボトルシップを、榊くんはこの部屋の棚に飾ってほしいと言った。


「なあ、先生」


榊くんとの時間は基本的に沈黙が多く、各々がやるべきこと、やりたいことをしていた。

会話のはじまりは、いつも『なあ』だから、先生とまで呼ばれなくても榊くんの方を向くようになった。


「俺、どうしたいんだろう」


正解のマルはつかないにしても、いつも僕なりの考えを答えてあげられるような問いばかりだったのに、その日は違った。

12月になったばかりの、一段と冷える日だった。


暖房の風は乾燥して喉も痛くなるから苦手だと榊くんが言うから、この冬はたくさん着込むことにしていた。

室内でも外さずに巻いていたマフラーに深く顔を埋め、榊くんは同じ言葉を繰り返した。


答えられずにいると、榊くんはどこか遠くを見ながら、僕ではない何かに、誰かに向かって問いかける。


「どうしたら、いいんだろう」


高校3年生の、僕と大して変わらない体格の榊くんの肩を掴んで、真正面から向き合う。

不安定に揺れる瞳に僕が映り込んでも、榊くんは僕を見ていないように感じた。


「いてえよ、先生」


掴んだ肩のことではないとすぐにわかった。

青い顔色。分厚い上着の下には、幾重にも肌着が重なっていて、その身体の細さに驚く。


「生きてる意味がわからないって理由じゃ、死ねないのかな」

「榊くん…?」

「ごめん、俺……なんか、ダメだなあ」


自虐気味に笑って、榊くんは僕の手を払った。

このとき、榊くんを引き止められるような言葉をかけられていたのなら、と何度も思い返す。


それからも榊くんは頻繁にここへ通った。

夢の話や、興味のある話が浮上することはなかった。


その代わりに、彼の友だちの話を聞いた。

僕以外の、5人。僕を含めた、6人。


生徒に友だちと言われて喜ぶなんて、変だろうか。

だけど僕は、先生としてではなく、大人としてでもなく、友だちとしてなら、榊くんにできることがあるんじゃないかと、手探りでそれを探そうとした。