骨は両親と同じ墓に入っている、と茜が言っていた。
それだけに、何も迷うことなく辿り着くことは出来た。
出来たのだが。
『……『仲村家之墓』って、書いてある』
汐里が独り言のように呟く。
初めて見る――いや、普通なら一度たりとも見ることは叶わない、自身の墓。
恐らく、世界中の誰一人として体験したことのない感情に、琢磨は一時、言葉を失って固まった。
本当に、自分の墓。
本当に、自分は死んでしまっているのだ。
改めて実感して、触れて、どう言葉にしたものか分からない。
琢磨は思わず唾を飲んだ。
汐里は、自分からは声を掛けない。
手に持った花は、両親が愛してやまなかったオキザリス。
今の人格は、琢磨だ。
「母さん、父さん…」
眼前にあるのは、自身の墓である。しかし同時に、自身の墓“でも”ある。
元は両親が眠っている墓石。生前、幾度となく訪れた、見慣れた筈の墓石だ。
琢磨にとってそれは、自身の死に触れる実感以上に、大切な想いや思い出を詰め込んだ、何より耐え難い両親の生きた証なのだ。
「後追いするつもりなんか無かったんだけどな。茜もいるし、色々やりたいこともあったから。でも――」
座り込んで花を供えながら、琢磨が言う。
「追い付いちゃったな、二人に」
涙は、無い。
「さっきまで、茜に会ってたんだよ。すげぇしっかりしてた。まだまだ子どもだから、きっと無理とか我慢とか、色々あるとは思うけどさ。おじさん達、俺は昔から世話になってたから言えるけど、優しいし、しっかりしてるから。時間は必要だろうけど、大丈夫だよ。心配しないで」
線香を灯して。
「何か変な感じだったよ、死んでから。勉強勉強って、茜の為だけに頑張って来たから、高校ってぶっちゃけ何も謳歌してなかったんだわ。友達って呼べるような相手だって、数える必要なんかないくらいしかいなかったし。だから、全部全部終わった後だったのに、新鮮な感じだよ」
そして、手を合わせる。
目を瞑って、数秒。
「もうすぐ、そっちに行くからさ。紹介したい、一番新しい友達も一緒に、さ」
『琢磨……』
受付で借り受けて来た手桶から水を引き上げる。
極度の寒がりだった二人の為に、少しばかりの湯を足したものだ。
墓石の天辺から優しくかけ流す。
たらりと伝う水が、乾ききった墓石を潤していく。
「いい加減、そのきったない鼻水の音、何とかしてくれないか?」
『う、うるさい…!』
内側で、汐里が叫ぶ。
「お前が泣くなっての。うちの墓だぞ?」
『さっきから苦しくなるぐらい我慢してる琢磨の代わりだって……感覚、伝わるって、もう忘れたの…?』
「――そう、だったな。悪い。なら、存分に頼むわ。昔、両親の前じゃ絶対に泣かないって、勝手に決めちゃったからさ」
『…………ん』
応えると同時、内側で熱かったものが、その熱を増した。
感情のまま、感じ取ったまま、汐里は心の代弁者だ。
それだけに、何も迷うことなく辿り着くことは出来た。
出来たのだが。
『……『仲村家之墓』って、書いてある』
汐里が独り言のように呟く。
初めて見る――いや、普通なら一度たりとも見ることは叶わない、自身の墓。
恐らく、世界中の誰一人として体験したことのない感情に、琢磨は一時、言葉を失って固まった。
本当に、自分の墓。
本当に、自分は死んでしまっているのだ。
改めて実感して、触れて、どう言葉にしたものか分からない。
琢磨は思わず唾を飲んだ。
汐里は、自分からは声を掛けない。
手に持った花は、両親が愛してやまなかったオキザリス。
今の人格は、琢磨だ。
「母さん、父さん…」
眼前にあるのは、自身の墓である。しかし同時に、自身の墓“でも”ある。
元は両親が眠っている墓石。生前、幾度となく訪れた、見慣れた筈の墓石だ。
琢磨にとってそれは、自身の死に触れる実感以上に、大切な想いや思い出を詰め込んだ、何より耐え難い両親の生きた証なのだ。
「後追いするつもりなんか無かったんだけどな。茜もいるし、色々やりたいこともあったから。でも――」
座り込んで花を供えながら、琢磨が言う。
「追い付いちゃったな、二人に」
涙は、無い。
「さっきまで、茜に会ってたんだよ。すげぇしっかりしてた。まだまだ子どもだから、きっと無理とか我慢とか、色々あるとは思うけどさ。おじさん達、俺は昔から世話になってたから言えるけど、優しいし、しっかりしてるから。時間は必要だろうけど、大丈夫だよ。心配しないで」
線香を灯して。
「何か変な感じだったよ、死んでから。勉強勉強って、茜の為だけに頑張って来たから、高校ってぶっちゃけ何も謳歌してなかったんだわ。友達って呼べるような相手だって、数える必要なんかないくらいしかいなかったし。だから、全部全部終わった後だったのに、新鮮な感じだよ」
そして、手を合わせる。
目を瞑って、数秒。
「もうすぐ、そっちに行くからさ。紹介したい、一番新しい友達も一緒に、さ」
『琢磨……』
受付で借り受けて来た手桶から水を引き上げる。
極度の寒がりだった二人の為に、少しばかりの湯を足したものだ。
墓石の天辺から優しくかけ流す。
たらりと伝う水が、乾ききった墓石を潤していく。
「いい加減、そのきったない鼻水の音、何とかしてくれないか?」
『う、うるさい…!』
内側で、汐里が叫ぶ。
「お前が泣くなっての。うちの墓だぞ?」
『さっきから苦しくなるぐらい我慢してる琢磨の代わりだって……感覚、伝わるって、もう忘れたの…?』
「――そう、だったな。悪い。なら、存分に頼むわ。昔、両親の前じゃ絶対に泣かないって、勝手に決めちゃったからさ」
『…………ん』
応えると同時、内側で熱かったものが、その熱を増した。
感情のまま、感じ取ったまま、汐里は心の代弁者だ。