翌朝。
なるべく早めの時間――まだ、陽が昇りきる前の時間だ。
「もう、行くんですね」
早朝も早朝、まだ誰も動いていないだろうという時間から、玄関口にて、汐里は靴を履いていた。
「うん。部外者の私があんまり長居するのも、おかしな話でしょ?」
そう言いながら、汐里は扉を開けた。
「そんなことは……あ、そうだ、桃さん」
呼び止め、茜は取り出したスマホの画面をスクロールしていく。
そうして何やら表示した画面を向けて来る。
そこには、茜と、見知らぬ女性が――
(お、い……待て待て、これって…)
琢磨の顔色が変わる。
「ふた月くらい前、かな。桃さんって人が、ここを尋ねて来たの。その時に撮ったもの」
「え、と…」
訳が分からない汐里、
『悪い、こいつは本物の桃だ』
事を知っている琢磨。
(ちょ、そんなことって……どうするのよ、これ…!)
『と、とりあえずは茜の話だ…! 怒ってはいない様子だが…』
そんな琢磨の予想は、当たってはいたが、当たっているだけだった。
「証拠も十分に示して、家に上げた。けど、お線香をあげたら、すぐに帰っちゃいました。あぁ、そんな人なんだなって、思ってたんですけど……何があったのか、何を知っているのかは知りませんけれど、貴女がこうして“桃”として訪ねて来たのには、きっと深い訳があるんです。ですが、私は敢えてそれについては詮索しません。しませんから――」
溜めて。
溜めて。
淡く微笑んで、
「兄のこと……よろしくお願いいたしますね」
そんな一言だけ残して、扉が閉められた。
「え、と…まさか、知ってたってことは、ないよね…?」
『さ、さぁ…』
真相は、茜本人以外が知り得ない事実。
けれどもそれを調べることこそ、野暮というもので。
こんな状況であの笑顔は、そう簡単には作れるものじゃない。
きっと――
なるべく早めの時間――まだ、陽が昇りきる前の時間だ。
「もう、行くんですね」
早朝も早朝、まだ誰も動いていないだろうという時間から、玄関口にて、汐里は靴を履いていた。
「うん。部外者の私があんまり長居するのも、おかしな話でしょ?」
そう言いながら、汐里は扉を開けた。
「そんなことは……あ、そうだ、桃さん」
呼び止め、茜は取り出したスマホの画面をスクロールしていく。
そうして何やら表示した画面を向けて来る。
そこには、茜と、見知らぬ女性が――
(お、い……待て待て、これって…)
琢磨の顔色が変わる。
「ふた月くらい前、かな。桃さんって人が、ここを尋ねて来たの。その時に撮ったもの」
「え、と…」
訳が分からない汐里、
『悪い、こいつは本物の桃だ』
事を知っている琢磨。
(ちょ、そんなことって……どうするのよ、これ…!)
『と、とりあえずは茜の話だ…! 怒ってはいない様子だが…』
そんな琢磨の予想は、当たってはいたが、当たっているだけだった。
「証拠も十分に示して、家に上げた。けど、お線香をあげたら、すぐに帰っちゃいました。あぁ、そんな人なんだなって、思ってたんですけど……何があったのか、何を知っているのかは知りませんけれど、貴女がこうして“桃”として訪ねて来たのには、きっと深い訳があるんです。ですが、私は敢えてそれについては詮索しません。しませんから――」
溜めて。
溜めて。
淡く微笑んで、
「兄のこと……よろしくお願いいたしますね」
そんな一言だけ残して、扉が閉められた。
「え、と…まさか、知ってたってことは、ないよね…?」
『さ、さぁ…』
真相は、茜本人以外が知り得ない事実。
けれどもそれを調べることこそ、野暮というもので。
こんな状況であの笑顔は、そう簡単には作れるものじゃない。
きっと――