諸々と処理を終え、さぁいざ琢磨の生家へと赴かんと動き出した矢先。
 どうやって話をつけ、そも何を目的として訪ねるべきか、どれも何一つとして決まっていなかったことに、遅れて気が付いた二人。

 まぁ大丈夫だ、と曖昧な言い方をする琢磨に訝しげな表情を浮かべながらも、自分では案が出せないだけに、汐里は頷き、琢磨の出方を窺った。
 インターホンを押してしばらく、控えめに開かれた扉から覗く懐かしい顔に泣きそうになりながらも、内側から琢磨が指示した文言。

「え、と。宮下桃と申します。お兄さん……琢磨さんが、単身卒業旅行にと北海道へ発った折、現地で彼女を作った、なんて話は聞き覚え…?」

 瞬間。

(ちょ、何それ私も知らないんだけど…! 琢磨から入って来た記憶の中に、そんなものなかったわよ?)

『まぁ黙って見てろ』

 興奮気味に追い立てる汐里と、対称に溜息交じりな琢磨。
 なんだそれはと思いながらも、

「あぁ、兄さんの?」

 当の妹――茜は、あっさりとそれを信じてしまった。
 琢磨曰く。高校卒業後、貯めていたバイト代で北海道に単身赴いた琢磨が、現地で一人の女性と出会ったという話。それ自体は本当なもので。

 レンタルした自転車がパンクしてしまい、土地勘もなくどうしたものかと胡坐をかいていた琢磨を、丁度そこを通りかかった女性に助けてもらったのだとか。

 十個程上だったその女性は、素性知れぬ琢磨の身の上を軽く聞いた後、一食驕り、自宅ではあったが寝床まで提供してくれた。
 何でも、女性は観光系の仕事に携わっていたらしく、一目で道外の人だと分かってしまったようで、だだっ広い田舎道、どうにも放っておけなくて、つい助けてしまったのだと語ったらしい。が。

 汐里からしてみれば、思うところは別にあって。

(それでオーケーって、私って実年齢より十個も上に見えるってこと?)

『大人っぽくは見えるな。まぁもっとも、あの人が特別童顔だったってこともあるんだが……まぁそれ以前に、茜には事実だけ伝えて、歳なんかは言ってなかったからな。まぁ何とかなって良かったじゃないか』

(……あとで色々と聞かせて貰うから)

『へいへいっと』

 手をひらりと振って適当に流す姿が目に浮かぶ。
 そんな二人のやり取りや知る由の無い茜は、疑問符を浮かべたまま汐里の言葉を待つ。
 あ、と短く洩らした後、代弁するのはやはり琢磨だ。

「わざわざ北海道から?」

「知り合い伝手で、琢磨さんが亡くなったと聞いて……日も浅い私でしたが、一時とは言え恋人を名乗っていたものですから、一度は伺いたいなと思ってたの」

「――なんだ、こんなに素敵な女性だったんですね。兄さんの女って話だったから、どんなもの好きかと」

(言われてるわよ、兄さん?)

『……あとで説教だな、茜め』

 溜息交じり。
 茜の促しで、とりあえずは家の中へ――