「どうぞ、何もありませんが、ごゆっくりなさってください」

 とあるマンションの一室はリビング。丸い机を囲んだ向かいから、茶色いコップに入れたお茶を少女が差し出す。

 見た目の印象、汐里とそう大差ない年頃だろうと予想出来る。

「ありがとう、ございます……ごめんね、いきなり押しかけて」

 と、そう謝るのは汐里。
 いいえと首を横に振る少女の髪が揺れる。

(ちょっと琢磨、ほんとに信じちゃったじゃない。これ、後からどうなっても知らないよ?)

『構わんさ。どうせ俺本体は死んでるからな』

(いや、そうは言ってもさ…)

 心の中での言い合いは、もっともなもので。
 それは、凡そ一時間程前に遡る。