薄く苦く微笑んで、知音はひらと手を振ると、そのまま屋上を後にした。
 一人残された琢磨は、何を思うでもなくまた空を仰ぐ。
 自由に、そして力の限り鳴き声を上げて飛行する鳥。

 と、一見すればそんな捉え方をする彼らも、ただ生きる為に日夜必死なのだと思うと、どうにもいたたまれなくなる。
 恵まれた環境にいて、他の生き物には出来ない自由をして、好きなものを食べて。
 それがどれ程までに贅沢で残酷な行為なのか。

 人間の大半は、それを知らない。

「……なんてな」

 そう生まれてしまったから。
 そうあってしまったから。
 動物に於いても同じものである。

 一つ何か大半と比べて違うものがあれば、縄張りから外されることもあると言う。
 それは、人間社会に於けるはみ出し者の扱いと同じだ。

 大多数は手を差し伸べない。
 大多数は大多数を正当化する。

 ただ、生きている環境が違うだけ。

 境遇がどうあれ、そのレールから外れてしまったものは、そういう扱いを受ける。
 たまたま、人間として生を受けてしまったというだけだ。
 どんな形でも、それぞれの枠の中で決まりというやつはある。

「まぁ、やることやるだけだわな」

 人間らしく。
 その中の、大多数と変わりのない一般的な人間である汐里らしく。
 何が特別か特別でないかなど、天秤にかけられるものはないのだ。


――そう、思った筈なのに。